3回目のテーマ <中学校でお金の授業> 自己肯定感を育むライフプラン学習
『親子のためのお金教育の専門家』、元銀行員・ファイナンシャルプランナーの横井規子です。
「このままじゃ、将来、お金で失敗しちゃう!」
我が子のお金のしつけをやり直した経験から、金融教育が重要と実感。それをきっかけに親や子のためのお金の授業をスタートし、これまで300校、17,000人が受講しています。
学校授業での経験や金融教育について、1年間お伝えしていきます。
横井規子⇒プロフィール
教員の切実な願い
\生徒達に、もっと自信を持ってもらいたいのです!/
札幌市のある中学校教員からお電話をいただいたのは、約3年前のことでした。
中学3年生の担任である、その教員が頭を悩ませていたのは、将来への不安を口にし、自己肯定感が低く、高校受験にも前向きになれない生徒が多いこと。
「どうしたら、子供達が将来に希望を持ちながら、学校生活を送ることができるのだろう」と、考えながらインターネットで検索していたところ、私の金融教育サイトにたどり着き、中学生向け『ライフプラン教育プログラム』の案内をみつけたようです。
【バナナンキッズ金融教育サイト】
このプログラムは、中学校での『総合的な学習の時間』に活用していただくことを想定して作ったもので、望ましい勤労観や職業観を形成し、主体的な進路の選択と将来設計を立てることを目標としています。
「これを活用すると、子供達にも変化が起こるのではないか!」とひらめき、お電話をくださいました。これをきっかけに3年連続、授業のお手伝いをしています。
なお、総合的な学習の時間とは、生徒が自主的に課題を見つけ出し、考えたり判断したりしながら、課題解決のための資質や能力を育てていくことを目的とした探究学習の授業です。
ゴールは「30歳までのキャッシュフロー表」を作ること
教員と相談し、授業12時間分を使い、ライフプランや職業選択について学習することを決めました。
この授業のゴールは、生徒各自の30歳までのライフプランを考え、キャッシュフロー表を作成し、発表すること。図1のようなイメージのものを一人ひとり作成し、廊下に掲示します。
図1
なお、キャッシュフロー表とは、やりたいことや買いたい物に必要なお金の準備ができるかどうかをシミュレーションしていくものであり、お金の出入りが確認できるもの。図2をご参考ください。
図2
掲示物には、自分のなりたい職業を記入し、イメージ写真を貼付、またはイラストを描きます。そして、その職業に就くためには、今後、何を行うべきかを考えて記入していきます。
例えば、編集者になりたいという夢を持つ生徒なら、それを叶えるために「文章を書く、読む力をつけることを目的に国語の勉強に力を入れたい」と書くこともできるでしょう。
12時間の授業で学んだことや感想も記入し、30歳までのキャッシュフロー表を作り、掲示物を完成させます。
12時間分のスケジュールはこちらです。生徒が主体的に取り組めるよう、ワークを多く取り入れています。
🔶1時間目
・オリエンテーリング
・ワーク「一人暮らしにかかる費用はいくら?」
🔶2時間目
・グループワーク「社会人1か月の生活費のイメージ」
🔶3時間目
・学歴別初任給と家計管理
・職業別年収
🔶4時間目
・自分の未来のために使われる費用(教育資金など)
・ワーク「30歳までにかなえたい夢」
🔶5~6時間目
横井による講演会
🔶7~8時間目
卒業後10年間のライフイベントとキャッシュフロー表作り
🔶9~10時間目
・掲示物作成
・スピーチ原稿作り
🔶11~12時間
・掲示物の発表
・講師への感想文作成
ゲームで学ぶ!キャッシュフロー表の作り方
5~6時間目は、私が担当する講演会です。その前の事前学習では、クラスごとに教員の指導を受けながら、一人暮らしの生活費や家計管理、職業選択について学びます。講演会終了後、各自、30歳までのキャッシュフロー表を作成していきます。それを作るには、手順や内容を知る必要があります。そこで、社会人の家計管理を疑似体験しながら、キャッシュフロー表を理解するゲームを取り入れて進めていきます。
300人が一同に集まって楽しめるこのゲームでは、「社会人1年目、ひとり暮らしの若者」をイメージし、先生方とじゃんけんをしながら、大きな買い物や旅行、借金、消費者トラブルなどを経験していきます。家計管理のコツや、トラブルに巻き込まれた時の相談先なども学びながら、キャッシュフロー表を理解していきます。
生徒や教員からも、「現実的な出来事を体験しながら、楽しく学べる!」と、毎年好評です。
生徒の関心も高い、社会保険制度
講演では、健康保険制度や年金制度についてもふれています。給料明細を元に、社会保険制度が暮らしに役立っていることを伝えていきますが、生徒の多くが健康保険制度の「高額療養費制度※1」に関心を持ちます。
年金については、老後のためだけのものではなく、障害になった時にも年金が支払われる可能性があることに驚きの声が上がります。「20歳になったら年金保険料を払おう」、「学生の間は『学生納付特例制度※2』を活用しよう」と、口にする生徒も少なくありません。
社会保険料は、会社員や公務員なら給料から天引きされますが、自営業者やフリーターは自分で納めなければなりません。もしも納めなければ、万が一の時に高額な治療費がかかったり、障害年金が支給されないといったことを知り、社会保険の大切さに気付くのです。
※1同じ月に高額な医療費の自己負担がかかったとしても、限度額を超えた分について払い戻しを受けられる制度。対象は保険適用となる診療に限られ、入院時に必要となる食費や差額ベッド代などは対象外です。
※2日本国内に住むすべての人は、20歳になった時から国民年金の被保険者となり、保険料の納付が義務づけられています。ただし、特例を受けようとする前年度の所得が一定以下の学生は、申請により在学中の保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」が設けられています。
ライフプラン学習で育む自己肯定感
ライフプラン教育が好まれ、毎年取り入れてくださっている理由は、生徒に大きな変化をもたらすことができるからとお伝えいただいています。このプログラムの最後に、講師への感想文を書く時間がありますが、一人ひとりの文面からもそれがうかがえます。
【生徒の感想の一例】
「大人がお金をかせぐまでに、どれだけ苦労をしているのかをもう一度考えて、感謝しなければいけないと思えるようになりました」
「僕は将来について、あまり考えたくなかったですが、今回の話を聞いて、自分の人生について考えようと思いました。年金についても、もっと知りたくなりました」
「いままで、将来のことを考えるというときには、夢や自分の将来の姿を考えていた。本当に考えるべきなのは、もっと現実的な生活をするために必要なお金や、環境のことだとわかった」
「この経験をもとに、将来安定して暮らせるように考えていこうと思いました」
感想には、親への感謝の言葉を書く生徒も少なくありません。「将来は不安なことでいっぱいでしたが、楽しみな気持ちが大きくなった!」と言う感想は、毎年いただきます。
そして、これまで不登校気味だった生徒が登校するようになったというご連絡も!
こういったことから、ライフプラン教育は、子供達が将来に希望を持ち、自己肯定感を育むことができるのではないかと考えています。
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