【2008年 第5回 今日もIt’s書!⑤~ そうだったのか!日本経済と日銀の金融政策のゆくえ~】地域コラム 九州・沖縄
平川 すみこ(ヒラカワ スミコ)⇒ プロフィール
日本銀行の役割ってご存知ですか?(多分中学か高校の社会で学んでいるはずですが。)
日本銀行は、日本銀行法に基づいて設立された日本の中央銀行。
『発券銀行』としての機能、『銀行の銀行』としての機能、そして『政府の銀行』としての機能を持っています。
そして至上最大の使命として、「物価の安定」と「金融システムの安定」の役割も担っています。
日本銀行は、これらの目標を達成するために、各種の政策手段を用いて金利の調整を行っているのです。
そこで、毎月開催されるのが日銀政策委員会の「金融政策決定会合」。
ここで、金融政策をどのように行うかが決められているわけですが、どのように話し合いや決定がなされているのかを私たちが垣間見れる機会はなかなかありません。
その金融政策決定会合を舞台に繰り広げられる、壮大な駆け引きや人間模様を描いたのがこの作品です。
もちろん、小説なので登場人物などはフィクションですが、舞台となっている日本の経済状況、金融政策決定会合の様子、金融機関の動き、市場や他国の反応などは、リアルそのもの。
まさに現実の世界で登場人物たちが奮闘しているかのようです。
日銀の金融政策は主に「金利調整」と「資金量調整」です。
民間の金融機関への貸付金利である公定歩合(現在は基準割引率および基準貸付利率と呼びます)を調整する「公定歩合操作」と、金融機関の債券を売り買いして市場の資金量を調整する「公開市場操作(オペレーション)」があります
ただし、金利調整も「公定歩合操作」ではなく、金融機関同士での資金貸付の際のレート(無担保コール翌日物レート)を誘導するようになりましたが、そのレートは限りなく0%という『ゼロ金利政策』が2006年6月まで続きました。
そして、その間は量的緩和政策として、「公開市場操作」による市場への資金供給がふんだんに行われることになったのです。
大量の資金供給がさらに市場をマヒさせ蝕んでゆく・・・そんな危機迫る日本の経済状態を背景としたこの物語の主人公は二人。
一人は、日銀の意思最高決定機関ともいわれる政策委員会の審議委員に就任したばかりの大学教授・中井昭夫。
そしてもう一人は、謎めいた若き美貌の日銀副総裁・芦川笙子。
男女が主人公ということは、もちろん恋のロマンスもありというのが小説ならでは。
20歳も年の離れた二人の距離がどうなるのかも読みどころです。
が、やはりなんといっても謎の副総裁・芦川笙子が日本経済に何を仕掛けようとしているのか、その展開から目が離せなくなってしまいます。
本書のタイトルである「日銀券」とは、紙幣のこと。
日本銀行が発行しているので正式には「日本銀行券」というのです。
紙幣を見てみてください。そう印刷されているでしょう。
国の中央銀行である日本銀行は『通貨の番人』とも呼ばれるように、発行している日銀券、つまり「円」に対する国民、そして世界からの信頼を守り抜かなくてはならない使命と責任を負っています。
「円」への信頼が崩れるということは、日本という国家の存亡が揺るがされるということになってしまうからです。
漫然と繰り返される量的緩和政策。それによって金融システムは安定しているかもしれませんが、金利の動かない市場は息の根が止まっているのも同然といえます。
「金利は真理だ。国の真の姿を表すものだ。」金利の動かない日本は瀕死に面しているのです。
金利の動く健全な市場へ。長いゼロ金利の時代を打破し、「円」への信頼を回復し、市場を正常な状態に戻す。
そのために芦川笙子が中井昭夫をはじめ、周りの人々を緻密に巻き込みながら挑む壮大なゼロ金利政策解除の計画とは・・・。
その内容は本書を読んでのお楽しみです。
その後、現実の世界でも、まさにこの小説のように日本はゼロ金利政策を解除しました。
もちろん美貌の日銀副総裁が仕掛けたわけではないのですが。日本経済の近未来を予言させるこの小説も、普段は聞きなれない用語が盛りだくさん。
でも、金融経済に疎い方でもすんなり理解しながら読み進められるのが幸田真音氏の巧緻な文章表現ならでは。
読み終わった頃には、経済ニュースを読むのが楽しくなるかも、ですよ。
『日銀券(上・下)』(幸田真音著、新潮文庫)
本の紹介URL:http://www.bk1.jp/product/02761205
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