【2008年 第11回 蟹工船ブームの影で】地域コラム 九州・沖縄
西谷 由美子(ニシタニ ユミコ)⇒ プロフィール
最初にお断りしておきますが、この話は西谷の所に寄せられた相談を組み合わせて作った、限りなく現実に近いフィクションです。西谷に相談すると色んな所でバラされる、ということは絶対にありません。どうぞご安心ください(笑)。
「西谷さん、どう説得したらいいか、大至急教えてほしいの!」
緊急の電話、切羽詰った声が訴えます。
「どうしたんですか、今度は?」
「義母がね、『もうすぐ共産主義革命が起きてしまう、国外に逃げ出す訳にも行かないし、どうしよう』ってそりゃあもう、毎日毎日食事も取れないくらい心配しているのよ。」
「はあぁ?革命・・・ですか?」
こちらのお義母様、最近年齢を重ねるごとに心配性の程度がどんどん進行しているご様子。お嫁さんの心配はつきません。先日もお孫さんが独立して部屋を借りようとした時の事。賃貸契約書に保証人が必要との事で、お嫁さんが捺印しようとしたら、
「保証人になってうちの土地を取られたらどうするの。絶対に保証人になってはいけません!」
最近問題のゼロゼロ物件ではなく、3ヶ月分の敷金が必要な、1ヶ月4万円のワンルームです。「まずはお孫さんがきっちり家賃を支払えば問題ないこと。たいていの場合、本人からの家賃が滞ると退去させられますから、最悪の場合でも退去までの家賃を何か月分か親が立て替えて支払うことで終わりますよね、お孫さんの独立心を尊重して信じてあげましょう。」というようにお義母さんを説得して、事なきを得ました。
今回はTVで「プロレタリア文学の『蟹工船(著者:小林多喜二)』がベストセラーになっている。その影響か、共産党に入党する若者が増加している。」と報じられたことが発端。戦中・戦後の混乱期を経験されている方で、革命でロシアから逃げてこられた方や、シベリヤ抑留者の悲惨な体験などをよくご存知。その事から、共産主義、革命という言葉に、とても敏感でいらっしゃるご様子でした。
確かに、ワーキング・プアと呼ばれる人たちの中で非正規雇用の若者が組合を作ったり、「ロス・ジェネ」という若者向けリベラル系雑誌の創刊などの動きも耳にしたことがあります。実際のところはどうなのでしょう?
資料を探してみますと、例えば元参議院議員(共産党)の筆坂秀世氏が雑誌に記されたところでは
「・・・志位和夫委員長は、『2007年9月以降全党で9000人近い新入党員を拡大し、8ヶ月連続前進を続けています』・・・新規入党者9000人の年齢構成は『若者が2割、高齢者が2割』・・・」(扶桑社「正論」11月号)
9千人の2割、2千人弱ですね。若者の詳細がわかりませんが10~20歳台を意味するのでしょうか?ニュースになるように増加しているんでしょうね。でも、小林多喜二の蟹工船は今年が作者没後75年にあたり今年の前半に40万部増刷されたそうで、1~6月で30万部近い売上だったそうです(6/27読売新聞)。
う~ん。1年で2千人の若者が入党、文庫本買った人は半年で30万人ほど。単純に事象を並べると大きな影響があるみたいですが、この数字からは本を買った人に対して入党した人の割合は1%未満ですね。それに第一、毎年多くの若者が入党したとしても、現在の日本共産党は党の綱領に『暴力革命』を標榜しているわけではありませんので、取り越し苦労といえるのではないでしょうか?
社会学に「擬似相関」という用語があります。別のことが原因なのに、一見してとても深い関係があるように見える、というような意味。「未亡人が多い地域」と、「クローバーが少ない地域」が高い相関を示しても「未亡人が四葉を探してクローバーを摘んだためにクローバーが少ない」とすぐに結論を出すのは危険、と笑える説明が。今回のお義母様の場合はさらに飛躍しているような気がします。
さて、うまく納得してもらえるでしょうか?ちょっと気になる今月の西谷でした。
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