【2008年 第9回 田舎暮らしのホントのトコロ「梨の花は春の雪」】地域コラム 中国・四国
キムラ ミキ
今回は、そのような状況の方にぜひ、読んで頂きたい小説をご紹介したいと思います。本のタイトルは「梨の花は春の雪」。この小説は、鳥取県米子市の市民シネマ「梨の花は春の雪」の原作小説です。往々にして、「田舎暮し」がメディアで取り上げられる場合、表面的な良い面をクローズアップしてあることが多いのですが、この小説では都会暮らしに慣れていた方が感じる、田舎暮しにおける、とらえ方によってはマイナスの部分についても、かなりリアルに描かれているように思います。
あらすじは、36
歳の女性が主人公。料理人である夫が、父親が病に倒れたため東京から米子に帰郷したのを追い、主人公とその小学生の娘が東京から米子市淀江町に移住します。主人公は大好きだったフードライターの仕事に未練があったものの、辞めることになり、何かも失ったような挫折感を感じながら日々を送ります。そのため、なかなか今までの東京での暮らしと異なる新しい生活に馴染めないでいる主人公。しかし、自然や人々との付き合いの中で、自分の居場所や新しい希望を見つけていく…というものです。
この小説を読んだとき、大学生のころの自分を思い出しました。地元を離れて東京の大学に進学し、生活に慣れた頃、やはり主人公と同じように、地元に帰っても面白いことは何もできないと、考えていた時期がありました。確かに、仕事のバリエーションや生活の華やかさは都心部での生活の方が田舎での生活よりも勝ることは間違いないでしょう。しかし、田舎での生活においても、視点を変えるとできることはたくさんありますし、田舎での生活だからこそ得られるものも山ほどあります。
著者である、松本薫さんがこの小説のメッセージとして「田舎をあきらめない」という言葉をおっしゃっていました。ご自身が進んで田舎暮しを始められた場合は、既に希望を見つけて、新しい生活にチャレンジされるのですから、あえてそのメッセージの意味を考える必要はないでしょう。しかし、ご自身の意思に反して田舎暮しを余儀なくされた場合、新しい生活に希望を見いだせない方もいるでしょう。そんな方に、ぜひ、この小説を読んで頂いて、ぜひ著者のメッセージである「田舎をあきらめない」という言葉を考えてみてほしいと思います。田舎での生活を楽しくするのも、つまらなくするのも、ご自身のとらえ方次第です。
この小説の映像作品も市民シネマとしては、素晴らしい出来になっていました。キャストには、吉井玲さんも顔を連ねます。また鳥取県の自然も多く映っていますので、小説だけでなくぜひ映像もご覧いただけると、また小説とは違う視点も見えてくると思います。ご関心のある方は、梨の花は春の雪公式ウェブサイトにぜひアクセスしてみてください。
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