【2011年 第4回】 震災下の円高 ~資産運用に必要な今どきの経済知識~
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
日本が危機的状況に置かれている中での円高。常識的には円安になっても良さそうなものですが、これが為替の難しいところ。一見矛盾する現象はなぜ?原因を考えてみましょう。
このたびの東日本大震災において亡くなられた方々にお悔やみを、被災された方々にはお見舞いを申し上げます。そして一刻も早い復旧を祈る共に、今自分が何ができるか、少しでも復旧の力になれれば、と考えております。
震災直後、被害状況も確定できず、福島第一原発の危機的状況の中、3月16日ニューヨーク市場での急激な円高。1995年4月の1ドル79.75円の過去最高値を突破すると、一気に瞬間的にですが1ドル76.35円まで急上昇しました。
このグラフはアメリカFRBが公表している2008年から2011年3月21日までのドルの対円レートです。
日本が危機的状況に置かれている中での円高。常識的には円安になっても良さそうなものですが、これが為替の難しいところ。思えば79.65円の円高も阪 神大震災、オウム・サリン事件の直後。逆に日本経済が予想以上に好調であってもそれが円高に結びつくとは限りません。それでは今回の円高を演出した要因は何なのでしょうか。
1.保険会社の外貨建て資産売却説
保険会社が巨額の支払いに備えて外貨建て資産を売却して円に転換したための円高。しかし今のところ保険会社による大きな外貨建て資産の売却は無い、とのことです。それでは今後の保険会社の動きを予想して投機筋が一斉に円買いに動いたのか。これはあり得る話です。
2.有事の円買い説
リーマン・ショックで明らかになったように、世界的な経済危機が起これば低金利の円が安全資産と捉えられ、円高が進む傾向があります。そもそも為替市場で低金利の通貨がバランスを取っている、という事はその通貨のリスクが低いと考えられているのでしょう。そこでリスクの低い円に買いが集中した。
今回の震災は日本で起きたことですが、日本は世界第3位のGDP大国。世界経済への大きな影響は避けられません。そこでより安全な資産は…、と円に注目が集まった可能性があります。
3.外貨FXロスカット説
外貨FXでは証拠金を超えて損失が膨らむのを防ぐために、証拠金の一定範囲まで損失が拡大すれば自動的に反対売買で手じまう、ロスカットが義務付けられています。このため、円高が一定水準までに進み一斉にロスカットが始動され、さらなる円高を生じさせた、とも考えられます。もっとも円高の動きがあまりに も急激過ぎてロスカットが間に合わず、平時にはあるはずのない証拠金を超える損失も出たのは皮肉な結果です。
外貨FXばかりではなく機関投資家も過去最高値の79.75円の防衛ラインを超えたために、リスク回避を発動し一斉に円買いを行った可能性も考えられます。
どれが主要因か?あるいはそれらが複合的に起きたのか?
一部の投機筋が震災で一儲けをたくらんだのか?
それはそれで“けしからぬ事”のように思えるが、そのような投機筋がいることで市場がうまく回ることも事実です。そのことで復興に必要なところにもお金が回ってくる事にもなります。少なくとも円高で、原油高の影響をいくらかでも緩和できることになります。
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