【2011年 第7回】 IPOのメリットとデメリット ~資産運用に必要な今どきの経済知識~
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
会社の成長。将来はIPOが目標!でもIPOはゴールではなく新たな出発点です。IPOに失敗すると取り返しがつきません。
IPO(Initial Public Offering:新規株式公開)。リーマン・ショック以降、非常に厳しい時代が続いています。さらにせっかくのIPOも不祥事の発覚で上場廃止になった企業もあります。
IPOで高まった会社の信用力。しかも不祥事が原因の上場廃止になれば取引先もそのような会社と取引はしたくありません。そのまま破綻となる可能性が高くなります。そこまでいかなくとも社長の退任は避けられないでしょう。たとえ自らの意思による退出であっても株主への納得のいく説明が必要です。一旦公開するとおいそれと元に戻すことは出来ません。そこでIPOのメリットとデメリットを見ていきましょう。
IPOのメリットとデメリット
1.メリット
(1)会社の信用力
上場企業であれば外部から会社の状況を把握するのも容易です。監査法人の監査も経ています。銀行の融資審査にもプラスとなります。取引先に対する信用度も高まります。むしろ取引先にとり上場企業との取引は一種のステイタスともなります。
(2)社員の士気の向上
営業面でも聞いたことが 未上場の会社より上場企業として営業する方が、効率的でしょう。また、社員個人が住宅ローンなどを組む場合も、上場企業の社員という立場は審査上有利に働きます。
(3)資金調達の多様化
未上場であれば融資以外の資金調達には困難が伴います。ベンチャーファンドによる株式の引き受けも可能でしょうが、前提として将来の上場による株式の売却という出資の出口を求められます。上場企業では株価という株式価値の明確に指標がある為、増資という手法もやりやすくなります。第三者割当増資ばかりではなく株主に新株引受権を割り当てるという手法も行いやすくなります。
2.デメリット
(1)コストと事務量
監査法人への報酬などIPOまでのコストと事務量も多大なものとなります。さらに上場後も四半期ごとの有価証券報告書の作成、重要事項決定時の適時開示等、所定の内部統制手続き等。内部体制は未上場企業に比べ比較になりません。
(2)敵対的買収の恐れ
上場企業ともなれば今までのようにオーナーが絶対的な支配権を握ることは出来ません。常に株主を意識した経営が必要です。
そして経営者は株主を選べません。“会社を乗っ取る”という好ましくはない株主も現れてくる可能性があります。それに対する買収防衛策もありますが、それも他の株主の理解が必要です。
もっとも、そのようなことを心配する前に、買収を仕掛けられるくらいの魅力ある会社にする方が先でしょうが。
(3)役員の責任の増大
上場企業の役員となれば社会的地位も高くなります。しかし地位には必ず責任が伴います。責任を全うせず結果的に会社に損害を与えた場合、株主から損害賠償請求がなされます。役員は社長に雇われているのではなく、あくまでも株主の代表という立場を肝に銘じておく必要があります。
3.IPOにさいして準備しておくこと
この他に将来のIPOに際して今から心掛けておくことを2点挙げておきましょう。
(1)反社会的勢力
反社会的勢力、いわゆる暴力団です。役員の中に暴力団関係者がいればそれだけでアウトですが、取引先にも注意が必要です。反社会的勢力は最初から自らの素性を明らかにして取引を要求することはありません。日頃より対策を講じておく必要があります。
(2)労務管理
雇用に関するトラブルは企業の管理能力を問われます。上場審査では特にサービス残業の有無は必ずチェックされます。
上場時での審査は銀行の融資審査の比ではありません。“まさかここまで!”というところまで見られます。一方、上場審査にパスをすれば、管理面では銀行や取引先からは優良な、そして安心して取引できる企業とみられます。事業拡大に大きなプラスとなるでしょう。
この記事へのコメントはありません。