【2011年 第9回】 周回遅れの財政改革 ~資産運用に必要な今どきの経済知識~
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
危機的な日本の財政。速やかな改革が必要。放置すると行き着く先は…?
日本の財政の現状
“グラフ1”をご覧ください。日本政府の年度当初の予算案から、公債金を除いた歳入、国債費を除いた歳出を1999年から2011年まで表したものです(データ出典:財務省)。いわゆる基礎的財政収支(プライマリー・バランス)と言われているものです。これは予算ベースで、決算の数字とは違います。あくまでも当初予算案で、年度途中の補正予算は含まれていません。リーマン・ショックと東日本大震災による補正予算は含んでいません。
傾向としては。
①常に歳出が歳入を上回っている。すなわち赤字です。
②赤字幅は2007年、2008年にかけて相当な縮小を見せていたが、リーマン・ショックを境に再度大きく広がりつつあります。直近の2011年度予算案では23兆円の赤字です。さらに2009年度以降の歳入のではその他収入が3兆円から5兆円ほど増えています。これは政府の努力による税収以外の収入が大幅に増えたわけではなく、いわゆる埋蔵金の取り崩しです。苦し紛れに、貯めてあった“へそくり”を取り崩すようなもので、この部分を歳入から差し引くと実際の赤字幅はさらい大きなものとなります。
③2002年以降の特徴として、歳入と歳出の変化の方向が逆になっています。2000年代全般は歳入増と歳出減、2009年以降は歳入減と歳出増が進行しています。これをもって、“財政政策による赤字は、景気好転による税収増でカバーできる。”という命題を否定するのは早計ですが、財政赤字が恒常化しているもとでの財政による景気刺激策は、財政の急速な悪化による経済の重大な危機という、大きなリスクが伴う可能性があるということも考えに入れておいた方が良いでしょう。
何やら見てはいけないものを見てしまったようですが、これが日本の財政の置かれている現状です。しかも歳出の中には削減が難しい社会保障費が29兆円含まれています。社会保障費は少子高齢化の影響もあり、このままでは毎年1兆以上の増加は避けられません。
このような財政にもかかわらず、円高が進み、日本国債の利回りが低いままです。いまのところは国債の大半は国内で消化できていますが、少子高齢化で貯蓄率が低下している現状では、国内で消化できるのも時間の問題でしょう。その前に外人投資家の多い先物市場での波乱が引き金になる恐れもあります。
対策として考えられるのはインフレ政策で国債元本の実質価値を減少させる方法もあります。これとても、そもそもデフレに苦しんでいる今の現状を思えば、インフレは起こそうと思ってもそう簡単に起きるものではありません。かつ、いったん起きたインフレはそう簡単に抑えることも難しいでしょう。よしんばうまくインフレが起きたとしても、インフレ率に応じて国債利回りの上昇は必至です。インフレによる元本の目減りが利払いの増加により帳消しになることも考えられます。
さらに、そのようなインフレ政策は日本国内にのみ留まらず、インフレの海外輸出にもつながります。各国政府がそのような政策を容認できるのでしょうか。海外にとって見たら“はた迷惑”としか思えません。
それでは、日本の財政の将来は?
最悪の場合、日本財政の“破たん”は有り得るのでしょうか。いまのユーロ圏の現状、もしそれが日本だとしたら。その時の危機の世界的波及はギリシャ等の比ではないでしょう。痩せても枯れても日本はGDP世界3位の経済大国。その日本の財政破たん。その世界的影響は計り知れないでしょう。日本が大規模なかつ世界的な経済危機の引き金を引くこと、それは日本ばかりではなく世界各国も何としても阻止しなければならないと考えるでしょう。
世界から見て日本政府は”too big to fail”,いわゆる“大きすぎて潰せない”ほどの規模でしょう。そのかわり財政規律への国際的な圧力は相当強いものとなるでしょう。その場合、当面はIMFの管理のもと、強烈な財政再建策を実行していかなくてはならないでしょう。
そうならないためにも、速やかに財再改革への方向への具体的な工程の作成が必要です。
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