【2011年 第10回】 通貨選択型投信の問題点 ~資産運用に必要な今どきの経済知識~
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
投資の王道は“リスク分散”。しかし一部の通貨選択型投信では“リスク集中”となっているものもあります。損失が拡大されることも有ります。
通貨選択型投資信託
いわゆる通貨選択型投資信託、ブラジル・レアル建が金融機関の積極的な営業姿勢も有るかと思いますが、人気を呼んでいました。それが2011年4月の1レアル54円程度から9月末には42円。レアルの急落により損失を抱えた投信も多いようです。
過去の投資家が予想外の損失を被った悪名高きEB債、リスクが限定されなかった一部のリスク限定型投信。そして今回のレアル建通貨選択型投信。その経過は既視感があるようです。
この3つの金融商品の特徴はデリバティブを組み込んだ複雑な仕組みの商品。投資の初心者を主なターゲットとしていましたが、熟練者はともかく初心者には理解が困難な商品です。もっともEB債やリスク限定型投信は投資に詳しい熟練者にとっては何らメリットを見出せない商品でしょうが。
仕組みに無理がある通貨選択型投信
通貨選択型投信とは、投資対象はハイ・イールド債、株式、原油や金などの商品、それにプラス各国の通貨を組み合わせたものです。特に高い分配率を目指している場合は、金利の高い通貨、特にブラジル・レアルなどの新興国通貨を組み合わせている場合が多いです。これにより、金利を分配金に回すことが可能となり、将来の基準価格はどうでもよいとして、とりあえず目先の分配金を高くすることが出来ます。しかしこの仕組みに無理があるようです。
たとえば原油などの資源価格とブラジル・レアルの組み合わせ。ブラジルも有数の資源大国です。ここから資源価格とブラジル・レアルの動きは同一方向になりやすいのでは、とも考えられます。
リスクの集中
もしそうであれば?投資の基本はいかにリスクを抑えながら高い収益を得るか。リスクを抑えるためには値動きの違う者同士を組み合わせる“リスクの分散”が効果的です。食事でも肉と野菜・穀物のバランスが大事です。この考えでいけば資源価格とブラジル・レアルは“リスクの集中”となります。
食事でいえば炒飯をおかずにご飯を食べるようなものでしょう。“リスクは大きくとも短期間で一山当てたい”という向きには良いでしょうが、長期的な資産運用を考えている場合は薦められません。
投資対象として見た場合のブラジルは悪くはないと思います。
グラフはIMFの予想したBRICS諸国の2011年の物価上昇率です。この中ではブラジルはほぼ中間的な位置にありまず。政治的にも一応民主政治が機能しており不足の事態が起きる可能性は低い方だと思います。あくまでも国際分散投資の一環として、ブラジル・レアルやブラジル株価指数などに投資をするのは良い考えでしょう。日本の高格付け債券と組み合わせるのも良いでしょう。しかし資源価格と組み合わせてはいけません。
資源価格の下落で泣きを見たうえに、ブラジル・レアル暴落というハチに刺される恐れもあります。
この記事へのコメントはありません。