【2011年 第12回】 欧州ソブリン・リスク ~資産運用に必要な今どきの経済知識~
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
世界的危機回避のためには重債務国の一致した財政再建が欠かせないでしょう。
2011年に駆け巡った大きな出来事
今年2011年は大きな出来事が駆け巡りました。
国内では、政権交代は毎年恒例の行事ですので省くとして、東日本大震災、消費税増税の是非、そしてオリンパス、大王製紙に見られるような不適切な経理。
対外的問題としては、TPP参加問題、そして円高。
外貨の動き
東日本大震災で日本の保険会社が“外貨を円に換えるのではないか”というリスクのために一時的に円高に振れましたが、その後一時円安に動いた後はジリジリと円高となり、7月に節目の1ドル80円を突破してから、1ドル70円台が当たり前になっています。
ドル以上に値を大きく下げているのがユーロ。ドル自体は円に対する日々の変動幅はそれほど大きくありませんが、それに比べてユーロの値動きの荒さが目を引きます。
円高とはいっても実質為替レートから見た場合は本当に円高だろうか?この辺の論議は別の場に置き、この場ではとりあえず円高とします。
ソブリン・リスク
長引く円高の最大の要因はユーロが抱えている一部の国のソブリン・リスクでしょう。いわゆる“PIIGS”と言われる、ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン。その中でもアイルランドはリーマン・ショック前から国の経済に占める金融の比重が大きく、これはリーマン・ショックに端を発する税制危機ともいえましょう。
一方、ギリシャは放漫財政と財政の粉飾によるもの。リーマン・ショックが無かったとしてもいずれは大きな問題になったでしょう。
ユーロのソブリン・リスクがどこまで波及するのか。フランスやベルギーも危険視されています。ユーロから離れてハンガリーにも波及しそうです。
問題は危機に対する支援体制がなかなか整わないことでしょう。手をこまねいていると欧州域外にも飛び火することも考えられます。日本も今は債券利回りから見る限り危険な兆候はありませんが、財政状況だけを見た場合の深刻さは先進国随一。火の粉が飛んでくると消火は容易なことではないでしょう。
支援体制を整えるためには、支援を受ける側の国がいかに財政再建に取り組んでいくか、そこが必要でしょう。その国が財政再建に取り組む様子が無ければ放蕩息子に追い銭を行うようなもの。国民の納得を得ることは困難で、支援を打ち切らざるを得ないでしょう。
ギリシャとイタリアは政権交代で実務家中心の内閣が発足しました。そこで政党の利害から離れて着々と再建できればよいのですが、一方、危惧される要素はその実務家内閣という特性だと思います。議会には基盤はありません。主要政党が協力しなければ債権は頓挫します。選挙のことを考えて国民に出血を強いる財政再建に協力しなければ、ユーロ危機は最悪の結末、すなわちユーロの解体、EUそのものの存立基盤の動揺の恐れもあります。主要政党も選挙より国ひいては欧州全体の将来を見据えた対応が望まれるでしょう。
このところは日本やアメリカも決して他人ごとではないでしょうが。
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