【2011年 第4回】相続・贈与のエトセトラ③ ~おすすめ?孫への贈与!?(その2)~
平川すみこ(ヒラカワ スミコ) ⇒プロフィール
このコラムでは、相続と贈与に関して知っておきたい話題をあれこれお伝えします。 前回のコラムでは、税制面では孫への贈与がおすすめになる、というお話をお伝えしましたが、今回は贈与をする際に気をつけておきたい点についてふれていきます。
平成23年度の税制改正では、相続税が増税となるため、相続税対策としての子や孫への贈与を検討される方も増えてくるでしょう。ただし、贈与の方法によっては、贈与税と相続税を合わせた負担がかえって高くなってしまう、ということもあります。
また、特定の者への贈与という行為が、他の相続人になる者に対して好ましく思われず、のちのちトラブルになる可能性もあることに注意が必要です。
■暦年課税贈与でのメリットは?
通常の贈与(暦年課税贈与)で孫への贈与を行うことは、相続税対策のひとつとしてよく行われます。その効果やメリットは、
①年110万円(贈与税の基礎控除)以下の贈与であれば、贈与税の負担がない(申告も不要)
②毎年110万円以下を贈与し続ければ、まとまった相続財産を減らす効果がある
③一年だけでも、110万円以下の贈与を複数の孫にすれば、贈与税の負担なく、まとまった相続財産を減らせる
④孫への贈与することで、本来であれば、父または母⇒子⇒孫と2回生じる相続税を減らせる
⑤贈与者の相続時に相続や遺贈等で財産を取得しない者へ行った生前贈与は、相続開始前3年以内であっても、相続税の計算において相続財産に加算しなくてよい
⑥未成年者の孫へも贈与できる
一方、注意点は
- 定期贈与とみなされないように!
②のように一定期間継続して一定額の贈与を行った場合、定期金の贈与として贈与税の課税がされることがあります。例えば、毎年100万円を10年間贈与し た場合、それはもともと1,000万円贈与することになってて、それを分割してあげただけでしょ、というようにみなされてしまうこともあるので要注意で す! - 受贈者が相続税の納税義務者にならないように!
また、⑤の効果は、遺言でその孫に財産を取得させる(これを遺贈といいます)と、相続開始前3年以内の贈与分は、相続税計算の際に加算対象となることをお 忘れなく。そして、相続税の納税義務者となったお孫さんは、本来相続人ではないので、相続税が2割加算となりますし、未成年者や障害者であっても控除が適 用できないので、相続税の負担が大きくなる場合もあります。 - 贈与を行った証拠を残しておきましょう!
暦年課税贈与で年110万円以下の贈与であれば申告も不要のため、贈与する孫名義の預金口座を開設し、そこに入金するだけということもあるでしょう。その 際、その預金通帳や印鑑の管理を贈与者自身が行っていると、贈与とは名ばかりでそれは贈与者の財産でしょう、と結局、相続財産として相続税の対象になって しまいます。
現金で贈与を行う場合は、贈与者の預金口座から、受贈者の預金口座へ振込みをするようにし、贈与の記録を残しておきましょう。
■相続時精算課税贈与でのメリットは?
平成23年度の税制改正では、60歳以上の祖父母から20歳以上の孫への贈与の場合も適用できるようになる予定の相続時精算課税贈与ですが、その効果やメリットは、
①累計で2,500万円までの贈与であれば、贈与税の負担がない
②贈与する財産や回数には制限がない(住宅取得等資金贈与の特例の場合を除く)ので、現金以外や高額の資産でも贈与できる
③贈与者の相続時に相続財産に加算するが、加算しても相続税がかからない場合は、贈与税も相続税も負担なく早期で資産移転ができる
- 暦年課税贈与はできなくなる!
相続時精算課税贈与は、最初の贈与の際にこの制度を利用する旨の選択届けを税務署に提出します。この制度は贈与者の相続開始まで継続適用となり、その贈与者からの贈与は暦年課税贈与にすることはできなくなります。
年110万円以下の贈与、でも累計されていき、選択当初からの贈与分が相続財産に加算されます。つまり、暦年課税贈与との選択適用なのです。その後、小口 の贈与をするから暦年課税贈与のほうが良かった~と思っても、一度選択した相続時精算課税贈与は取り消せませんので、最初の選択時に十分検討することが大 事です。
- 受贈者は必ず相続税の納税義務者になる!
受贈者が、贈与者の相続時に相続や遺贈等で財産を取得しない場合でも、相続時精算課税贈与を受けた分は、年数にかかわらずすべて相続税計算の際に加算対象となります。
そして、相続税の納税義務者となったお孫さんは、本来相続人ではないので、相続税が2割加算となりますし、障害者であっても控除が適用できないので、相続税の負担が大きくなる場合もあります。
- 贈与税の還付を受けるためには相続税の申告書の提出が必要!
相続税は課税価格の合計額が基礎控除額(平成23年度の税制改正で、3,000万円+1,000万円×法定相続人の数になる予定)以下であれば、申告も不要です。つまりほったらかしでいいんです!
■相続時精算課税贈与の注意点
でも、ここが注意点!
相続時精算課税贈与の分を加算しても基礎控除額以下になれば、相続税の申告が不要ということですが、もし、相続時精算課税贈与で累計2,500万円を超える贈与を受けていて、贈与税(2,500万円を超えた分の20%)を納めていた場合は、相続税の申告書を提出しなければ還付が受けられません。自動的に精算されて還付されるわけではないことに留意しておきましょう。
- 相続財産に加算されるのは、贈与時の価格!
相続時精算課税贈与は、メリット③のようにそもそも相続税もかからないようであれば、贈与税の負担なく贈与できるので、すごくいい制度です。
でも、相続税がかかる方には節税になる制度ではないと言われています。結局は相続財産に加算されて相続税として精算されるからです。でも、相続税対策として活用する方法はあります。それは、将来値上がりしそうな資産を低い価格のときに贈与してしまう方法です。なぜなら、相続財産に加算するのは、贈与時の価 格(評価額)でいいからです。ただし、逆に贈与時よりも相続時に価格が下がっていたとしても、加算するのは贈与時の価格になりますので、注意が必要です。
以上のように、贈与を行うにあたってはいろいろな注意点があります。特に相続税対策として贈与をする場合は、実行前に税理士等の専門家に相談し検討することをおすすめします。
また、お孫さんへ高額な贈与をするにあたっては、親御さんはもとより、贈与者の相続人になる方々の了解も得ておかれるようにしましょう。相続人にならないお孫さんであっても、生前贈与されたことで相続財産が減り相続人の遺留分が侵害された、として減殺請求対象になるということもあり得るからです。
円満な相続のために、生前中に行う贈与でも相続時のことを配慮しておくことが大切ですね!
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