【2011年 第1回】 銀行がないあの頃のローン ~ウチの家計簿、武士の家計簿~
西谷 由美子(ニシタニユミコ)⇒ プロフィール
幕末の武家の家計は火の車っていいますけど、どこから借りて、どんな状態だったんでしょうね。映画やその原作を元に、現在と比較してみました。
武士の家計簿
2011年が始まりました。振り返ると、昨年はずいぶん時代劇にハマってました。SF医療時代劇「仁~Jin」の影響で幕末に興味を持ったのですが、年明け早々福山さんの新しい龍馬像に魅入られて、ほぼ1年間、日曜の夜はTVの前に釘づけ。お別れして寂しくなった頃には篤姫でお見かけした堺雅人さんが映画 「武士の家計簿」に主演なさることを知りました。
家計簿という言葉にFP的に反応した私、映画の元になる磯田道史氏の「武士の家計簿『加賀藩御算用者の幕末維新』」をかなり前に読んだのを思い出しました。大名・貴族とは違った一般の武士の生活がわかる貴重な資料、ということでしたが、ホントに几帳面につづってあることにカンドーしたのは覚えています。
本棚の奥から引っ張り出して改めてページをめくると、堺さん演じる猪山直之のお孫さんって、これまたTVでやってる「坂の上の雲」の秋山真之と海軍兵学校で同期であられたそうで、いやあ~不思議な縁というか一致というか。
借金の利息
一致といえば、現代の私たちの消費者金融からの借金の利息は、一連の法改正で15~20%(利息制限法より)。この資料の中では、猪山家が借り入れた借金の利息もまた15~18%が多いとか。*1
日本史の授業でやった、大昔の「公地公民制が乱れると国司は農民に貸し付けた種籾の利息を50%~100%に設定した」という出挙(すいこ)に関する記述が甦り、ずいぶん暴利だよねと感じていたことを思い出しました。それに比べると、江戸時代の利息、意外と明朗会計?
資料が比較的みつかりやすい大名、旗本は両替商から借り入れていたと教科書にもありますが、家来の武士の借入先は「武士仲間や親戚、領地の農民、町人」だそうです。そして大名が両替商から借り入れる金利は8~9%、領民(農民など)同士は10~12%なのに武士に関しては上記の通り。一般の武士は担保がとりにくいので必然的に高い金利となった、というのだそうです。*2
当時のお給料はお米で払われます。そこそこの身分の武士は知行地といって自分の領地からお年貢がお米で、身分が低くなると領地はなく、殿様からお米が渡される形で、お給料が入ります。けれど生活には現金も必要なのでお米をお金に替えなければなりません。領地って藩の中のあちこちに散らばっているし、土地所有ではなく年貢を徴収する権利があるだけなので、担保になりにくいのだそう。またお米を差し押さえても、現金に替える時に損するかもしれない、と。なるほど、当時のお金を貸す側の人は、ちゃんとリスクがわかっていたわけですね。
とんでもない利息額
さて、猪山家では年収の2倍ほどの借金を背負っていたので、あるとき一念発起、借金の整理をしたそう。そりゃそうでしょう。現代では年収の4~5倍でマイホームを購入、その住宅ローンは現在超低金利の2%前後。これが金利15%だったら。2000万円借り入れて、1ヶ月目の利息だけで25万円です・・・ああ、考えるだけで寒気が。現代に生まれて良かった~!
江戸時代ですから、人々は昔からの習慣をきっちり守って生活をしていたでしょう。そうすれば当然出費も多い、家柄、格式を守るなら更に大変なことだったでしょう。今のように地域のお付き合いが希薄ではない時代、また金融業が今ほど発達していない時代ですから。
そんな中、しっかり計算をして(算用者だからあたりまえか?)、奥様が着物を新調するのも我慢されて借金返済を優先した猪山家の決断力と行動力は、現在の私たちも見習わなければならないものですね。
あ、だから、映画化されちゃった?
という訳で、今月から一年、「武士の家計簿」を参考に、昔と今の家計を比較していきたいと思います。ご興味をもたれたら、映画も見てくださいね。
*1 武士の家計簿 P56「猪山家の負債一覧」
*2 斎藤修 「徳川後期における利子率と貨幣供給」
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