【2011年 第11回】 憧れの印税生活のはずが ~ウチの家計簿、武士の家計簿~
西谷 由美子(ニシタニ ユミコ)⇒ プロフィール
ベストセラー作家は今も昔もいたはずですが。江戸時代のベストセラー作家は左団扇じゃなかったってホント?
近所の書店
田舎に帰って、晴耕雨読の生活ですが、ここ1か月、いつも週末は雨。これでは読む予定の本が途切れそう・・・で、天気も良いし、散歩もかねて近所の書店に出かけてみました。
都会にいたときは、紀伊国屋やジュンク堂、超大型書店に入りびたっていたのですが、こちらは、地元の個人経営の書店・・・全滅、チェーン店がちらほら・・です。したがって売れるモノ中心の品ぞろえで、ベストセラー、コミック本、タウン誌などが売り場の中央に。
平積みで目に付くのは、どうしてもこの時期は「スティーブ・ジョブズ」自伝。表紙がきれいな「体脂肪計タニタの社員食堂」はちょっと前から売れてましたよね。TOHANとか紀伊国屋の統計では直木賞受賞の「下町ロケット」、ノンフィクションでは退職なさった古賀茂明氏の著書が売上の上位に名を連ねておりましたが、あります、あります。
古賀氏ということで連想、他にも官僚を退職された後、文筆活動である程度収入が、、、古くは佐藤優氏、高橋洋一氏の名前が浮かびます。まあ、退職金もあるでしょうけど(例外の人もいますが)、退職により自由に執筆活動できて、執筆による収入もそこそこ、生活の心配はしなくてよさそうな気がします。余計なお世話でしょうけど。
江戸時代の作家の収入
なんでそんなこと言うかというと、江戸時代に作家一本で副業を持たずに生活された人は珍しいのだとか。まあ、印税とか著作権って概念がないわけですから、執筆だけで生活するのは大変だったでしょう。あ、日本の場合当時の世界最高の識字率で、今の新聞にあたる瓦版もあった訳ですから、「字読めない人が多いから、著述業で生きていくのは無理でしょ。」という批判は当てはまりませんけどね。
で、作家専業で頑張っていた初期の有名人は、滝沢馬琴氏だとか。「南総里見八犬伝」、「椿説弓張月」などの読本作者として江戸時代後期に活躍・・・と日本史の時間に習いませんでしたか?ちょっと調べてみたら、「八犬伝」ものすごいボリューム、「グイン・サーガ」とか「三国志」を思い出しちゃいました。
聞いた話なのですが、江戸は元禄時代、井原西鶴が「好色一代男」を著した頃には、1冊書いてベストセラーになったら一晩お接待してそれで終わりだったとか。近松門左衛門は歌舞伎の脚本を座付作者として書いて、年収17両(現在価値で470万円弱)だったとも言います。この場合はいわゆる「勤め人」のポジションですね。
これが江戸後期になると読者人口も増加、柳亭種彦著「偐紫田舎源氏」は38編からなるのに各々1万部売れたという記録があり、十返舎一九は「東海道中膝栗毛」1編ごとに10両を手にしていたそうです。
南総里見八犬伝は執筆開始から完成までに28年を要し、全98巻、106冊を19編に分冊して発行されたそうです。もちろんその間に他の仕事も手掛けていた訳で、年間収入は35~40両ほどあったらしいです。物価も加味した現在価値で945~1080万円ですね。
今の日本はいい時代
丸々所得ならたいしたもんでしょうが、売り上げと見て経費を考えると・・・贅沢な生活ができるというよりは、フツーのサラリーマンの年収に近い数字になりそう。庶民に人気、時代を経て20世紀には角川映画にもなった作品の執筆者とはいえ、画家のゴッホよりは生活は楽でしょうが、資料をあたったり(今みたいにネット検索や国会図書館通いはできません)、筆に巻紙で原稿書いたり、をしっかりやると、こりゃあ経費が相当な金額になりそうですね。
執筆一本で生きる、私はすごく憧れる生き方、ベストセラーになって左団扇、なら猶更です。でも教科書に名前が残るくらい有名な昔の方ですが、比較するとやはり今の時代ならだれでも情報の発信者に簡単になれる、、、収入がついてくるとは限りませんが。どちらかというと今のほうが楽なんだね~。日本にいながら、ネットでCNNのニュースから、地球の裏側の若者の「ハレハレユカイ」ダンスまで、受け身ではありますが無料で見ている私にはそう思えてなりません。やっぱり今の日本はいい時代、いい国なんでしょうね。
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