【 2009年 第 2 回 】過去を振り返る(経済)なぜそう考える 長期的視点
恩田 雅之(オンダ マサユキ)⇒プロフィール
新しい学問である経済学
過去を振り返るために1冊の本を読みました。「入門経済思想史 世俗の思想家たち」(ロバート・L・ハイルブローナー著/ちくま学芸文庫)がその本です。
内容は、株式市場や債券市場ができる前の時代から、1950年代までの経済思想を俯瞰した内容になっています。
この本を読んで、経済学という学問は他の学問に比べてかなり新しい学問であることがわかりました。経済学者は市場を研究対象にします、市場システムが無いければ経済学者は登場できません。
市場システムについてこの本では、「社会全体を養い維持していくためのメカニズム」と考えて、市場システムの中では人は「金銭的に見て自分に一番有利なことをする」と言っています。
私利は経済発展の推進力
アダム・スミスは、「私利」を経済発展の推進力と考え、「競争」を行き過ぎた「私利」を調整する機能と捉えています、「需要」も「私利」の調整機能と捉えています。
そして、利益の蓄積が生産設備を増やし、高度な分業を可能にすると考えました。 高度な分業は、賃金を上昇させ、それにより養える人口が増え、需要と供給によって賃金が下降すると言っています。
高度な分業をグローバル化、人口増加を新興国の労働力と置き換えてみると現代とあまり変わらないような気になります。また、政府の役割を教育と道路建設(社会インフラ整備)とも言っています。
限りある資源
アダム・スミスの後に登場する、マルサスとリカードは限りある資源について考えています。
この時代の限りある資源は土地でした。マルサスは、人の数は幾何級数的に増え、耕作可能な土地は算術的に増えることを人口論に書いています。
リカードは、産業家が生み出した富により、賃金は上昇し、人口が増えることで食料価格が上がり、耕作可能な土地を所有している地主の利益が増える、有限な資源を持っているものが利益を上げ、それは、本人の努力と関係がないと書いています。
少し前に起こった資源高騰とあわせて考えてみると、希少価値のあるものを持っていることの優位性を改めて感じます。
楽観的なアダム・スミスから悲観的な見方のマルサスやリカードまで、労働者の見方は、賃金が上がり豊かになれば、労働者は家族を増やすと考えられていました。
また、J・S・ミルは、労働者階級の教育レベルが上がれば人数調整が行われると考えました。この考え方は、日本などの現在の出生率をみますと納得させられます。
マルクスは労働者と機械を対比
そして、労働者への関心が高まったところに、マルクスが登場します。マルクスは労働力を労働者と機械を対比して考えました。「労働者は、利潤を生む生産手段」、「機械は、利潤を生まない生産手段」と位置づけました。
労働者は得た賃金を使って消費をすることにより、産業家に利潤をもたらすが、機械は作るだけで消費をしないので産業家の利潤をもたらさないことを述べています。現在の派遣社員の低賃金や機械化による合理化の弊害を予言しているように思えます。
さて、ケインズ以降の部分に触れるまえに紙数が尽きてしまいました。過去の出来事や思想を見ていくと現在と似たようなことがあります。「100年に一度の経済危機」というこの機会を有効に活用するために、もう一度、過去を振り返りましょう。
次回は、1月、2月のニュースを長期的視点で考えてみたいと思います。
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