【 2009年 第 6 回】「総量規制」で多重債務者はなくなるか?? トピックス
松山 智彦 (マツヤマ トモヒコ)⇒プロフィール
「キャッシング」とは、ここでは貸金業法上の貸金業者が個人の信用力を担保のする、いわゆる“無担保融資”と位置づけをします。つまり”サラ金”です。
この言葉は、終身雇用が当たり前の時代に、信用力があるサラリーマンに融資していた事から付けられ、60年代~70年代に一般に広まりました。”サラ金”というと悪いイメージがついていますが、それは、キャッシングにまつわるさまざなトラブル、つまり返済能力以上に融資を受けて、自己破産に追い込まれたり、非正規業者(”ヤミ金”)から融資を受けたり、強引な返済を迫るなどで事件に発展する事などが、印象深いからかもしれません。
これらを防止するため、貸金業界全般を見渡し、上限金利の引下げ、貸金業取扱主任者制度の導入、貸金業者の財産的基礎要件の引き上げ、業者間の情報共有、総量規制などが盛り込まれた貸金業法の改正が2006年12月に公布されました。この改正は4段階に2007年から4段階にわかれ、総量規制は、来年6月に実施されます。
総量規制の概要
総量規制とは、年収の1/3を超えて借入ができない制度です。
式:年収×1/3≧借入金額
ここでいる借入金額は1社だけでなく、複数の貸金業者からの借入合計になります。
例えば、年収300万円の人は、借入可能限度額は100万円になり、それを超えて借入することはできません。また、その範囲内であれば、いつでも借りられる“極度額”を設定している場合には、極度額が借入した額とみなして計算します。
では、年収300万円の人が、がんの陽子線治療をして300万円の高額療養費がかかり、その支払のためにキャッシングしたい場合はどうでしょうか?
総量規制には、借入残高に算入しなくてもよい、「総量規制の適用除外」と、返済能力があると判断された場合のみ借入が認められる「総量規制の例外」があります。
適用除外の事由:不動産購入・リフォーム等の貸付(つなぎ融資含む)、会社が所有権・担保権を保有することを条件とする自動車購入の貸付、本人・親族の高額療養費支払のための貸付
例外の事由:有価証券・不動産を担保とする貸付、売却予定不動産を代金で返済する場合の貸付、借り換え契約、医療費の支払のための貸付(高額療養費を除く)、個人事業主の事業に対する貸付、配偶者貸付
ここでみなさんは、2つの疑問があると思います。
ひとつは、年収がどのようにしてわかるのか。
もうひとつは、他社の借入がどのようにしてわかるのか。
年収については、1社で50万円以上、複数社で100万円を超えて借入をしたい場合に、収入を証明する書類(例えば、直近2回分の給与支払明細や、前年度の給与所得の源泉徴収票など)を提出しなければなりません。
他社の借入については、指定信用情報機関制度の導入することで、借入金額や借入残高などの情報を共有することが、貸金業者に義務付けられますので、そこから情報を取得する事ができます(もちろん、借入に関する事以外で情報の利用はできません)。
借入時の年収情報の収集と、借入の情報を貸金業者間で共有することで、総量規制の体制を整備し、多重債務者撲滅を目指しています。
総量規制の問題点
現在、借りている人の約44%の人がこの総量規制に抵触します。これらの人を救済するための対策が必要になるといわれています。
また、生活費の補填として、利用する人が約36%と、生活に欠かせないキャッシングが利用できないという問題が予想されています。
また、総量規制についての認知度も低く、貸金業改正をほぼ内容まで知っている人は、借入している人の約40%、総量規制までになるとその中の約15%しか居ません。
抵触する人の多さ、認知度の低さを早急に解決させていく必要があると思われます。
さらに、指定信用情報機関制度には、キャッシングサービスがある金融機関(銀行等)が参加していません。総量規制からは事実上、外れている事になり、多重債務者撲滅を目指す総量規制の趣旨に反していると言えそうです。
いずれにせよ、消費者にとって、安易にキャッシングに頼らない状況が整備される事になるが、真に必要な人にまで利用できないという副作用的な部分が、単に個人的な問題だけでなく、信用収縮という経済的な問題にまで発展するのではと懸念しています。
※データはすべて日本貸金業協会が、09年2月に公表したものを使用しています。
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