【 2010年 第 3 回】後悔しない住宅ローンの選び方③―民間住宅ローンに関する実態調査 家計コラム
福田 英二(フクダ エイジ)
二つの調査概要は、以下の通りである。
需要と供給それぞれから見た実態調査
同じ民間住宅ローンに関する実態調査だが、留意すべき点は、調査対象者と調査対象時点である。
調査対象者は、国交省調査が供給サイドにあり、機構調査は需要サイドにある。前者は我が国の全住宅ローン供給者1468機関をほぼ網羅しており、回答機関数も1347機関にのぼる。年1回調査実施である。後者は、年3回実施。毎回の調査対象者は、1031件(H21年度第3回)~1202件(同第2回)程度だが、実需者を抽出して行っている。
調査対象時点は、国交省調査が20年度実績値を対象にしており一年遅れの実態レポートに対し、機構調査はほぼ最新時点が対象でタイムリーな実態把握にある。
国交省調査は、住宅ローン全体の実績として新規貸出額と貸出残高を集計している。平成20年度の新規貸出件数は77万321件、金額15兆9519億円。年度末貸出残高件数715万2652件、金額114兆4149億円である。回答機関数は、それぞれ1239(新規貸出件数)、1245(同金額)、1192(残高件数)、1241(同金額)と異なる点が要注意だ。都市銀行を例にとると、新規貸出では3機関、残高では2機関、3機関である。個々の設問に対する回答は、回答していなかったり、統計上実績に含めるには不備な回答があったり様々なようだ。
貸出件数と金額のカバー率
貸出件数と金額のカバー率を見ておきたい。住宅金融支援機構が各機関への照会や日銀の統計資料などを集計(一部推計)して発表している20年度の新規貸出額と貸出残高は、19兆4909億円、178兆4301億円。国交省調査発表値のカバー率(=国交省調査発表値÷住宅金融支援機構発表値×100%)は81.8%、64.1%。機関数でわずか4機関の相違にすぎないが、残高のカバー率が低いのは、新規貸出は少なく貸出残高は多い例えば都銀の一角などがこれに該当しているのではないかと推測できそうだ。
又、新規貸出金額と貸出残高については、最近4カ年の推移をみている。前者のNは1002、金額は637である。推移は、ほかに新築住宅建設購入融資実績と借換え実績がある。これらのNは175と174。回答機関数が一段と絞られ、実態把握は限定的と言えそうだ(ただ、他に適当な実態調査が見当たらないが、同調査の発表値も活用は困難)。国交省調査とはいえ、回答先Nがこのような状況になっていることに留意しておくことが必要と考える。
金利タイプ別
両調査には、金利タイプ別の実績がある(下表)。
国交省調査のNは229と少ないが、機構調査のN=1031よりは実質サンプル数は多いとみてよい。この前提で両者を金利タイプ別にみると、
①変動金利型が一番多く利用されているのは両調査に共通。低金利状態が続き、金利負担回避行動狙いを志向する傾向が強いことを示している。国交省調査37.3%対機構調査51.8%は、調査対象時点のズレを映した結果とみている。機構調査値は、現在進行形的でまさしく実態反映型である。
②固定期間選択型は、国交省調査54.4%対機構調査32.7%。利用最多は、占率の差はあれ10年ものが一番、3年ものがこれに続く。10年ものが多いのは供給サイドの事情(思い切った金利引き下げを行うなどして利用者の関心を引く動きがみられる)が大きい。
③全期間固定金利型は、国交省調査8.3%対機構調査15.5%とほぼダブルスコアに近い。この違いも調査時点の違いが原因とみている。機構HPの証券化関係統計と照合すると、国交省調査の証券化ローンは当然ながら実態を現している。
機構調査には経済対策も含めた近時行われたフラット35商品の弾力化効果を反映してきているという点だ。
実態調査結果を活用して情報発信する際には、以上のように留意すべきことが多いことを忘れないよう、心している。
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