【2010年 第2回】 今日の相続空模様②~均等に分割しなきゃいけないの?~ 家計コラム
平川すみこ ⇒プロフィール
そもそもは、亡くなった人(被相続人)の財産ですから、自分が死んだら自分の財産を誰にどのくらい分けたいかという意思が最も優先されます。意思を伝えるために、遺言という方式を用いることになっていますね。
でも意思を残さずに亡くなってしまうと、誰にどう分けるかが問題になってきます。そこで、民法では、亡くなった人の財産を引き継ぐことができる相続人と相続割合を規定しているのです。
子どもたちはみな平等
戦前の日本は家督制度であり、長男相続制でしたので、その家の主が亡くなると、長男が全財産を相続するのが当然でした。他の子どもたちは何も相続できなくても文句は言えなかったのです。(ちなみに被相続人の配偶者にも相続権はありませんでした)
その長男相続制も、1947年の新民法の制定で廃止。配偶者にも、いかなる子どもにも平等に相続権を持つことが規定されました。これが、争続の始まりとも言われています。平等に、つまり、同じ子ども同士なのだから、「均等」に分けなさいよと法定化されたことによって、長男以外の子どもが自分の相続分を当然のことのように主張し始めることになってきたのです。
均等に分けるのが本当に平等?
3人兄弟。母親はすでに他界。
商売人の父親を無償で手伝い、リタイア後に介護状態になってからも面倒をみ続けてずっと独身の長女。
大学を出て結婚し、嫁の親と同居。実親の面倒どころではない長男。
結婚後、父親から買ってもらった家で、都会で気ままに暮らす二男。
さて、父親が亡くなったとき、相続財産はこの3人で均等に分けないといけないのでしょうか?
民法が規定する相続分では、3人の相続分は均等で、3分の1ずつ。
でも、果たして、父親の相続財産を3分の1ずつ分けるのが、本当に平等なのでしょうか?
もちろん、3人ともに3分の1ずつ分けることに納得しているのであれば、何の問題もありません。
でも、この例で言うと、親の面倒をみてきて婚期を逃した長女。独身のため父亡き後の生活にも不安があります。
一方、長男、二男は学費や住宅購入費用を援助してもらっているものの、父親の面倒はほとんどみていません。
そこで、3人で協議をして、長男と二男は財産をもらわず、全財産を長女が相続することにしてもいいのです。揉めることなく丸く収まり、長女も安心して暮らせて、メデタシ、メデタシ。
しかし、そううまくいく家庭ばかりではないのです。兄弟だからとはいえ、それぞれに言い分はあるし、財産も欲しい。長男、二男には「長男なんだから多くもらってもいいくらいなのよ!」「二男でも3分の1は相続できる権利があるんだから!」と妻たちの口添えもあるし。そうなると泥沼です。哀しい兄弟間の諍(いさか)いが始まります。
寄与分と特別受益を考慮する
このように、親の財産維持・増加に貢献したり、逆に親から生前中に贈与を受けている相続人がいる場合、「寄与分」と「特別受益」を考慮して遺産分割を行うこともできます。
寄与分があれば、寄与者がその寄与分をもらい、残りの財産を相続人で分けます。
(寄与者の相続分の計算式)
相続時の財産価額-寄与分=みなし相続財産
(みなし相続財産×法定相続分)+寄与分=寄与者の相続分
特別受益があれば、特別受益分を加えて各相続人の相続分を計算します。それから特別受益分を差し引いた分が、特別受益者の相続分になります。
(特別受益者の相続分の計算式)
相続時の財産価額+特別受益分=みなし相続財産
(みなし相続財産×法定相続分)-特別受益分=特別受益者の相続分
とはいえ、寄与分ってどれくらいなのか明確には算出できません。相続人の話し合いで決めることになるのですが、これも非常に難しいですよね。相続人同士でまとまらない場合には、家庭裁判所での調停・審判で決めることになりますが、ここでも寄与分がなかなか認められないこともあります。
どちらにしても、それぞれにわだかまりが残る分割になると、その後の兄弟関係も険悪になってしまうかもしれませんね。
では、どうしたらよいのでしょう?
亡くなられてからでは手遅れですが、父親が遺言を作成していれば、こういった諍いは避けられたかもしれません。そのような効果のある遺言については、後日のコラムでお話ししたいと思います。
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