【2010年 第11回】 今日の相続空模様⑪~遺留分にご用心・後半~ 家計コラム
平川すみこ ⇒プロフィール
遺留分を考慮するのはどんな場合?
○兄弟姉妹が相続人になる場合は考慮の必要なし
相続人が兄弟姉妹(代襲相続人の甥・姪含む)になる場合は、兄弟姉妹には遺留分の権利がありませんので、遺言で兄弟姉妹分の遺産の取得分をゼロとしても心配はありません。
例えば、相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、「配偶者に全財産を相続させる」という遺言でもよいということです。逆に、このような遺言を書き遺していないと、兄弟姉妹の相続分は4分の1ですので、配偶者は兄弟達と遺産分割しなくてはならなくなります。
○遺留分権利者が相続人になる場合は考慮が必要
特定の者に法定相続分より多く相続させるようにしたり、相続人以外の者にも遺産を取得させるようにしたい場合は、遺言を書いておかなくてはなりません。その際に、遺留分権利者の遺留分を考慮しておかないとトラブルが生じることになるかもしれません。
遺留分のトラブルを防ぐには?
そこで、なるべくトラブルにならないようにするために、次の方法が考えられます。
① 遺留分に配慮した分割内容にしておく
② 付言事項や手紙を添えておく
③ 生きている間に遺留分の放棄をしてもらう
①遺留分に配慮した分割内容にしておく
トラブルになって、心理的にも大きな負担が生じるのが、遺留分の減殺請求の時です。請求する方も、される方も、双方がとても辛い気持ちを味わうことになりかねず、その後の関係もギクシャクしたものになってしまうようです。
そこで、請求する、されることがないように、遺言を書く際には、はじめから遺留分に配慮した分割内容にしておくことが望ましいでしょう。
例えば、前回の例と同じくAさんの相続人が妻と長男と二男の3人としましょう。それぞれの相続人の遺留分は、妻が4分の1、長男と二男はそれぞれ8分の1です。
よって、遺言には、妻が4分の3に相当する財産分、長男と二男がそれぞれ8分の1に相当する財産分となるように、分割内容を指定しておきます。
そうすれば、長男と二男が、いくら自分達が取得する分が法定相続分に満たないからといって、遺留分は相続できるわけなので、母親であるAさんの妻に遺留分の減殺請求をすることはできないのです。
②付言事項や手紙を添えておく
しかしながら、特定の財産を分割する場合、どうしても特定の者の取得分が多くなってしまって、他の相続人の遺留分を侵害してしまうこともでてきてしまいます。
例えば、相続財産が自宅の土地と建物しかないような場合、配偶者の終の住処として、配偶者に全部相続させたいという場合。明らかに他の相続人の遺留分を侵害することになりますが、どうしようもありませんね。
また、事業を承継する子どもにその会社の株式等を全部相続させる場合も、その株式が相続財産に占める割合によっては、他の相続人の遺留分を侵害してしまう、ということもあります。
そのように、どうしても誰かの遺留分を侵害してしまうことになる場合は、その理由などについて「付言事項」や手紙で書き記しておくことをおすすめします。
「付言事項」とは、遺言書の最後に付けるメッセージのことです。本文とは違って法的効力はないものの、なぜそのような遺言をしたのかという理由や、心情、感謝の気持ちを書くことで、相続人たちが遺言の内容を理解しやすくなる効果があるといわれています。
また、遺言書とは別に手紙を書いて同封しておくという方法でもよいでしょう。
どうして自分が相続する分が少ないのか、その理由や遺言者の心情が理解できれば、多く相続する者に減殺請求をすることまではしなくなるでしょう。
③生きている間に遺留分の放棄をしてもらう
例えば、妻に全財産を相続させる遺言を書き遺すなら、あらかじめ子どもたちに遺留分を放棄してもらうようにするという方法もあります。そうすれば、死後に子どもたちが妻に遺留分の減殺請求をすることはできません。
しかし、この遺留分の放棄は、もちろん遺留分権利者の自発的な意思で行うものなので、強要することはできません。また、家庭裁判所に申立てをし許可してもらう必要がありますが、遺留分権利者本人が自発的に申し立てたとしても、必ずしも許可してもらえるわけではないのです。
遺留分の放棄をする者が、被相続人からすでに十分な財産を贈与してもらっているので放棄をするといった、放棄する正当な理由があると判断されないとダメなのです。
そこで、遺留分に相当する財産を贈与し、遺留分の放棄をしてもらうということになりますが、お金に困っているので相続財産をあてにしている、家族仲が良くないような場合は、遺留分の放棄をしてもらうよう頼むのは困難な場合もあります。遺留分権利者である子どもたちが、気持ちよく遺留分の放棄ができるような配慮も必要ですね。
生前中に贈与した場合はどうなる?
遺言で、特定の者の相続分を多くすると遺留分の問題が出てくるので、生きている間に財産を贈与してしまえばいいのではないか、と考える方もいらっしゃるでしょう。
贈与税の負担が発生するだろうことはさておき、贈与する場合でも、遺留分に注意しておく必要があります。つまり、その贈与がなかったら遺留分はもっと多くなっているはずだ!ということで、遺留分を計算する際の財産には、被相続人が生前中に贈与した分も含めることになっているのです。
相続人に対しての贈与は何年前のものであっても対象となり、相続人以外の者に対しての贈与は原則として相続開始前1年以内のものが対象となります。ただし、遺留分を侵害することを被相続人と贈与を受ける者が知っていた場合は、1年より前の贈与も対象となります。
生前中の贈与であっても、自分の死後に、遺留分をめぐってトラブルがおきることがないかどうか、十分に考慮しておくことが大事です。
法定相続分よりも優先されるとする遺言。しかし、その遺言よりも保護される相続人遺留分。遺言は希望通りに分割してもらうため、遺産分割の争いを防ぐためのものでありながらも、一方では遺留分による争いを生じさせるものであることを十分考慮して、トラブルが生じることのない遺言を書き遺すようにしたいものですね。
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