【 2010年 第 7 回 】認知症の予防・介護の場面でも役に立つ①~“自分の棚卸”は手軽にできる「回想法」 ”終わり”ではない「エンディングノート」
高原 育代(タカハラ ヤスヨ)⇒プロフィール
自分の棚卸が認知症の予防にも
「時間軸」という切り口で、過去の自分をふり返り、≪思い出≫や≪お気に入り≫をひとつひとつノートに書き記すとことで自分と向き合ってきました。
こういった“自分の棚卸”が、認知症の予防あるいは介護の場面でも効果のある「回想法」とも結びつく可能性をご紹介したいと思います。
長寿そのものは喜ばしいことであっても、高齢化に伴う心身のさまざまな病気に対しては不安を持つ人は多いことでしょう。
特に、認知症については、高齢者人口の増加に伴って今後も確実に増えることが予想されています。
厚生労働省の「2015年の高齢者介護」によれば、介護が必要となる認知症高齢者は、2015年までに250万人、2025年には323万人にもなると推計されています。(この報告書は2003年時点の予測であり、実態の把握には至っていないのが実情のようです。)
認知症というと、妄想や幻覚を起こして騒いだり、近所を徘徊するようになったりするなどといった恐ろしい様子を想像してしまいがちです。
でも、こういった問題行動は、実は認知症が引き起こす症状の一部であり、すべての人がそうなるわけではないのです。
病名ではない認知症
そもそも、認知症そのものは病名ではありません。
老化や病気など何らかの原因によって脳が機能低下した結果、認知機能(認識する・記憶する・判断する力)が障害を受け、社会生活に支障をきたすようになってしまう状態のことなのです。
認知症を引き起こす原因となる病気はたくさんありますが、もっとも多いのがアルツハイマー病と脳血管障害です。
記憶障害や判断力の障害(筋道を立てて考えられない)、見当識障害(「いつ・どこ」がわからない)といった「中核症状」は、病気の進行そのものによって引き起こされるものですが、幻覚を見たり、妄想を抱いたり、暴力をふるったりといった「周辺症状」と呼ばれる問題行動や精神症状については、生活環境に左右されることも多いのです。
例えば、アルツハイマー病などで脳が萎縮したとしても、そういった周辺症状を引き起こさないで、その人らしい生活することをすることは可能です。
問題行動や精神症状が起きてしまうのは、「中核症状」が背景となって不安感をもたらし、その結果引き起こされてしまうと考えられています。
こういった「周辺症状」が起きてくると、介護をする家族にとっては、大変大きな負担となります。
24時間の見守りが必要となるといった肉体的な介護負担に加えて、身近な大切な人の本来の人格が失われていく様子を見なければならないという、精神的な辛さも加わってしまうからです。
予防や改善方法「回想法」
が、実はこういった不安定な状態や行動は、介護する側の適切なケアによって、予防できたり改善したりすることができるのです。
そんな方法の一つが、「回想法」という手法です。
認知症高齢者は、新しいできごとについてはすぐに忘れてしまっても、過去のできごとについては残っていることが多いのです。回想法はそういった脳の特性を活かして、専門家あるいは家族など周囲の人が、本人にとって懐かしく楽しい思い出に寄り添い受け入れることで、精神的な安定をはかる方法です。
ノートを使って“自分の棚卸”をすれば、自分自身との対話によって、回想法と同様の効果が得られるとも考えられるのではないでしょうか。人生をふり返ることによって、自信を取り戻したり、自分の存在意義を確認できたりする、そんなきっかけとなる場合もあるはずです。
認知症の予防というと少し大げさかもしれませんが、ノートに書き記すというごく手軽な方法で、自分の脳を活性化することができるのなら、ぜひトライしてみませんか?
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