【 2010年 第 8 回 】認知症の予防・介護の場面でも役に立つ②~「本人本位」のケアをしてあげる、してもらうために… ”終わり”ではない「エンディングノート」
高原 育代(タカハラ ヤスヨ)⇒プロフィール
認知症になったらどんなケアをしてあげたい?
前回は、ノートを使った“自分の棚卸”によって、自分で書くことによる回想法の効果の可能性についてご紹介しました。
「健康で長生き」それは誰もが望むことです。
でも、年齢を重れば重ねるほど、心身ともに長年の衰えが出てくるという現実には逆らうことはできません。
親や夫・妻など、身近な家族が認知症になってしまった場合は、あなたはどんなケアをしてあげたいと思うでしょうか。
認知症のケアのポイントとして、よく言われるのは「相手の視点に立って」ということです。
が、理屈はそうでも、日常的なケアをする家族にとっては、実際にはそんな余裕を持てない場面に直面させられることが多く、現実的にはむずかしいことが多いでしょう。
認知症の人は、ことばで自分の感情をうまく伝えられない状態にあることが多いので、その「相手の視点」に立つための足がかりを得ることがむずかしいかもしれません。
そういったケアされる人とケアする人とのコミュニケーションがうまく行かない状況が作り出す悪循環によって、「作られた障害」を生み出してしまい、結果的に本人も家族も苦しむことはなるべく避けたいものです。
ケアマネジメントシートというツールを活用
新しい認知症ケアとして、ケアされる本人の気持ちを知るための「センター方式」というケアマネジメントシートというツールを活用する方法が注目されています。
この「センター方式」というのは、厚生労働省が2000年に設置した「認知症介護研究・研修センター」が開発した全16枚のシートからなっています。
これらのシートに記入する情報を家族や介護者が記入することによって、少しでも本人の気持ちに近づき「本人本位ケア」をめざそうとするというわけです。
16枚のシートはA~Eの5つの群に分けられています。
Aシート群:基本情報
Bシート群:暮らしの情報
Cシート群:心身の情報
Dシート群:焦点情報
Eシート:24時間アセスメントまとめシート
これらのシートの中でもBシート群は以下のような構成になっています。
B-1:私の家族シート
B-2:私の生活史シート
B-3:私の暮らし方シート
B-4:私の生活環境シート
B-2「私の生活史シート」に記入するのは、これまでに暮らしてきた場所や人、どんな呼ばれ方をしていたか、その頃の暮らしやできごと、あるいはこれまでしてきた仕事や得意なことなど。
どうですか。
これらは、まさにこのコラムでご提案してきた「エンディングノート」に記入してきた、「私の『これまで』編」にあたる部分ですよね。
自分自身の手で振り返った記録がノートに記載されたものは、「その人の視点に立つ」ための、「その人らしさ」を知る一番の手がかりになることはまちがいないでしょう。
自分本位のケアのための貴重な情報となるエンディングノート
あくまでも、自分自身の“棚卸”として自分を整理するノートとして気楽に記入していけばよいと思いますが、万一、認知症などで介護が必要となった場合には、「自分本位」のケアをしてもらいやすくする貴重な情報を家族など周囲の人に知ってもらうためにも活用することもできるのではないでしょうか。
また、親や夫・妻など身近な家族が認知症になったときにも、少しでも気持ちに近づく情報源とするために、こういったノートに記入しておいて頂ければ、「本人本位」のケアをしてあげやすくなるでしょう。
脳の機能が低下して記憶障害などが出ている人でも、幼年期など懐かしい昔の記憶は残っていることが多いのです。子どものころの写真や、若い頃に気に入っていた音楽や映画などを見せながら問いかけをしていくと、次々と、古い友人のことや昔の経験について本人が楽しんで話してくれるようになる場合もあるのです。そうして誰かと話すことで脳が刺激され、精神的に落ち着き、感情が豊かになり、安定した生活を送ることができるようになります。
精神的に安定することは、生活も落ち着くので、結果的に介護をする家族にとっても負担が少なくなることにつながります。
本人の気持ちに寄り添うためには、何が好きでどんなことをしてきた人なのか、それを知る手がかりがあれば介護のある生活にも余裕を見いだすことができるかもしれません。
さらに、「私の『これまで』編」だけでなく、次回以降ご紹介していく「私の『今』編」にも、このセンター方式のB-3「私の暮らし方シート」に共通する項目があります。
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