【2011年 第7回】新 商品先物取引のしくみ 投資コラム
三次 理加(ミツギ リカ) ⇒プロフィール
商品先物取引の売買に必要な資金
前回まで数回にわけて、商品先物取引の特徴や仕組みについて紹介しました。第7回となる今回は、売買をする際に必要となる資金について説明しましょう。
第3回で説明したように、商品先物取引は、総取引金額のおよそ3~10%程度の資金で取引を開始することが可能です。この資金のことを「証拠金」といいます。
今般の法改正に合わせて、商品先物取引の証拠金制度は大きく変更となりました。従来は、商品取引所が商品ごとに取引本証拠金基準額を定め、各商品先物取引業者は、その取引本証拠金基準額を下回らない金額を「証拠金」として設定していました。
2011年1月以降は、SPAN® (スパン)に準拠した証拠金制度に変更となりました。証拠金額の計算は、証拠金計算方法であるSPAN®に基づいて行われます。商品先物取引業者は、SPAN®により計算された額を基に、これを上回る額を「証拠金」として定めることになりました。
ちなみに、SPAN®とは、The Standard Portfolio Analysis of Risk の略で、米国のシカゴ・マーカンタイル取引所が開発したリスク対応型証拠金計算システムのことです。世界各地の主要取引所で広く採用されているため、証拠金計算の国際標準ともいえます。身近なところでは、日経225mini等の証拠金計算にも採用されています。
○SPAN®証拠金制度の特徴
SPAN®に基づく証拠金計算では、相殺可能なリスクを差し引きます。従来は商品ごとに個別に証拠金を計算していましたが、SPAN®では、保有するポートフォリオ(=建玉状況
注1)全体から生じるリスクに応じて証拠金を計算するところに特徴があります。
SPAN®では、ポートフォリオ全体のリスクを計算する際、以下のような組み合わせにおいてリスク相殺を認めています。
①同一商品・同一限月の「売り」と「買い」の建玉
②同一商品・異なる限月間における建玉
③価格に相関性のある商品グループ間における建玉
④先物とオプションの建玉
組み合わせによってはリスクが軽減されることになるため、ポートフォリオ全体に対する証拠金必要額が、従来よりも減額になることがあり得ます。
また、SPAN®に基づく証拠金計算では、過去の一定期間における価格変動を基準として、翌営業日までに生じるリスク(=発生する可能性のある損失額)を算出し、その金額を証拠金額とします。過去の価格変動幅が大きい(=価格変動リスクが大きい)時は証拠金を多めに算出します。
逆に、過去の価格変動幅が小さい(=価格変動リスクが小さい)時は証拠金を少なめに算出します。リスクに応じた証拠金額を設定するため、価格変動リスクが高い時はポジション(=建玉)を抑制する効果が発揮される半面、価格変動リスクが低い時はレバレッジを高め(=ポジションを多くして)積極的な取引をすることが可能となり、効率的な運用を行うことができます。
つまり、SPAN®とは、価格変動や保有するポートフォリオにおけるリスクの大小に応じて証拠金額を加減する証拠金システムといえます。
○SPAN®証拠金制度概略
SPAN®証拠金制度では、商品先物市場の清算機関である株式会社日本商品清算機構(以下、JCCH)が定める計算変数(=SPANパラメータ)を基準に、証拠金額を算出します。
SPANパラメータとは、過去における原資産の日々の価格変動に基づいてJCCHが定めた証拠金計算の基礎となる変数のことです。
商品先物取引業者は、この最低限必要な証拠金額を下回らない範囲で、各社のルールに基づき「委託者証拠金額」を定めます。つまり、委託証者拠金額や証拠金に関するルール等は、商品先物取引業者により異なります。
委託者(=お客様)が取引を行う際は、委託者証拠金額を商品先物取引業者に差し入れまたは預託する(注2)必要があります。証拠金は取引に参加するために必要な担保金であり、また取引を決済するまでは定められた金額を維持することが必要となります。
次回は、取引する際に覚えておくべきルールについて説明します。
注1 建玉(たてぎょく)とは、取引所で売買約定したもの(=成立した注文)で未決済のものを指す。ポジションともいう。
注2 「差し入れ」「預託」ともに、顧客が商品先物取引業者へ証拠金を入金する、という行為。(株)日本商品清算機構への預託方法により異なる。
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