【2011年 第12回】 商品先物市場の機能(2) (3)~資産運用機能、透明で公正な価格の形成・発信機能~ 新 商品先物取引のしくみ
三次 理加(ミツギ リカ) ⇒プロフィール
最終回となる今回は、商品先物市場の機能のうち「資産運用機能」「透明で公正な価格の形成・発信機能」について説明します。
②資産運用機能
第4回で説明したように、商品先物取引は、現物の受け渡しをすることなく、売値と買値の差額(差金)を授受することにより取引を終了させることができる、差金決済取引が可能です。この売値と買値の差額が損益となります。
また、第3、7回で説明したように、少額の資金(=証拠金)を差し入れまたは預託する(注1)ことにより、その数倍から数十倍の取引を行うことができます。
商品先物市場は、投資家がこれらの特徴を利用して利益を追求する、という資産運用機能を持っています。
注1 「差し入れ」「預託」ともに、顧客が商品先物取引業者へ証拠金を入金する、という行為。(株)日本商品清算機構への預託方法により呼び方が異なる。
ちなみに、商品先物取引の利益追求方法は、以下の通り、主に3種類あります。
a.価格の上昇で利益を追求
b.価格の下落で利益を追求
c.価格の上昇・下落に関係なく利益を追求
aは、「価格上昇を期待して買い、上昇したら転売する」という方法で、基本的な投資方法といえます。これに対し、bは第4回で説明したように「価格下落を期待して売り、下落したら買い戻す」という手法により利益を追求する方法です。aおよびbは、商品先物市場における基本的な運用方法といえます。
一方、cは、同じような値動きをする2商品の一方を売り、他方を買うことにより、両者の価格差の拡大(または縮小)で利益を追求する手法です。この手法は、「鞘取り」と呼ばれます。鞘とは価格差のことです。鞘取りは、商品市場だけではなく、株式市場でも利用されている投資手法の一つです。たとえば株式の場合、同業種などの相関性の高い2銘柄のうち「割高な銘柄を売り、割安な銘柄を買う」という鞘取りが行われることがあります。
③透明で公正な価格の形成・発信機能
商品先物市場には、これまでに説明した「価格変動リスクのヘッジ機能」「資産運用機能」の他に、「透明で公正な価格の形成・発信機能」という重要な役割があります。
モノの価格は、原則として、売り手と買い手のバランスによって決まります。ところが、たとえば売り手が一部の大手業者に限定された場合、売り手の都合によってのみ価格が決定されることがあり得ます。
一方、取引所における価格は、ヘッジを目的とした生産者や需要家、現物の受け渡しを目的とする投資家や企業、リスクを取って利益を追求する投機家など、様々な思惑をもった多くの売り手と買い手の存在によって決まります。
また、取引は明確なルールに基づいて行われ、誰かが市場を独占、支配することのないよう取引所が監視を行っています。そのため、取引所で決定される価格は「透明度の高い、公正な価格である」といえるでしょう。
このように多数の売り手と買い手の存在によって取引所で成立した価格は、ただちに内外に発表され、生産者が値決めを行う際や需要家が商品を購入する際に、価格指標として参考にされています。たとえば、新日本石油や出光興産などの石油元売り会社では、石油製品の卸売価格を決定する際、東京工業品取引所における石油製品の先物価格を参考にしています。
前回、少し触れましたが、2011年8月より、東京穀物商品取引所並びに関西商品取引所に、我が国でおよそ72年ぶりとなるコメの先物取引が上場(試験上場)されました。米は、「世界の三大穀物(米・小麦・とうもろこし)」のひとつです。しかし、小麦やとうもろこしと異なり、世界的な指標価格となるコメ市場は存在しません。今般、上場されたコメ市場が発信する価格が、果たして世界的な指標価格となり得るか否か、注目されます。
以上、1年間にわたり「新 商品先物取引のしくみ」と題し、商品先物取引について説明いたしましたが、如何でしたでしょうか?
本コラムが皆様のより良き投資の一助になれば幸甚です。
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