マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。
目次
【第2回】 池田龍也 の ちょっと気になるニュースから 「円安って悪ですか?」
池田龍也⇒プロフィール
▼ 円安悪玉論の論点
4月末、急激に円安が進み、一時1ドル160円台になって、びっくりしましたが、その後も、大きく円高にはもどらず、円安傾向が定着してきた感があります。みなさまは、どう見ていらっしゃりますか。34年ぶりの円安といいますから、1990年以来の円安だったわけです。
1ドル 160円 34年ぶりの円安
世の中では、こうした円安傾向を嫌う議論がけっこうありますね。
・円安で輸入品が値がりして物価上昇に歯止めがかからない。物価高は庶民の敵だ。
・日本人が海外旅行をすると、いろいろ割高に感じてしまってたいへん。ラーメンが一杯何千円、たこ焼きが6つで何千円と、円換算すると、とんでもない値段になっている。
・製造業で、材料や部品を輸入しているところは、コスト高になって経営が厳しい。
・為替レートは、その国の国力を示すものだから、円安は、日本が売られている証拠、日本が安い国になってしまって嘆かわしい。
・日本の購買力が減っている。ひいては国力の衰えにつながる。
円安を否定的にとらえる主な論点は、このようなものでしょうか。たしかに、それぞれの指摘には説得力があります。ここでは、それぞれの論点に踏み込むのではなく、円安によって何が起きているのか、プラスの側面にも焦点を当ててみたいと思います。
▼ 「デフレ大変だ!」から「値上がり大変だ!」
ついこの間まで、世の中は、長く続いたデフレ状態を、どうにか脱出したいと思っていたのに。そして、バブル崩壊以降「失われた30年」などといわれた不名誉な時代をいつの日か終わりにしたいと思っていたのに。いざ、値上がりが始まったら、大変だ!大変だ!といっているわけです。「デフレ脱却」は、イコール「ものの値上がり」ということですから、「デフレ脱却」はめざしていたのに、「ものの値上がり」は嫌だ、といっているわけですね。あるいは「値上がり」が急すぎるというわけでしょうか・・・。
▼ メディアも同調!
メディアも、ついこの間まで、「デフレ脱却はまだまだ」「どうするデフレ状態」といっていたのに、最近では、手のひらを返したように、「値上がりは庶民の生活を圧迫する」、「賃金は上がっても物価も上がっているので実質賃金はまだまだマイナス」と、デフレ脱却への道筋が見えてきたかもしれないのに、まるで悪いことのように伝えているケースもあります。
▼「オーバーツーリズムで困った」の合唱
最近話題になったのが、富士山の撮影ポイントでした。
富士山が重なって見えるコンビニの前に人が集まりすぎて、混乱している、あるいは危ない、あるいは迷惑だから、ということで大きなシートを張って富士山を見えなくした、というニュースが取り上げられていました。
「オーバーツーリズム」という言葉が広まり、観光客が来すぎてしまうのも問題だという流れになってきています。
「観光立国」の掛け声のもと、官民挙げて外国からの観光客を呼び込もうとしたのは、われわれ日本人です。コロナも乗り越え、10年がかりでようやく観光客がどっと押し寄せ始めたら、今度は、「困った困った!」って、なんか妙な気がします。
「デフレ脱却が合言葉だったのに物価上昇に転じると今度は困った」といい「めざすは観光立国だったのに外国人観光客が押し寄せたら困った困った」という、このふたつ、どうも構図が似ているような気がしませんか。どちらも円安が背景にあります。みんなで右を向いていたと思ったら、ある日、急にみんなが左を向いている、そんな危うさを感じざるをえません。白か黒か、賛成か反対か、といった二者択一ではなく、円安でも観光でも、良い面とそうでない面がありますから、問題があればどのように対策を講じるかにも目を向けたいものです。
▼ 観光立国は大きな経済効果
日本政府観光局によると、4月の訪日客数が304万2900人でした。新型コロナウイルス流行前の2019年4月を4.0%上回り2カ月連続で300万人の大台に乗せた、ということです。
次のグラフは、訪日外国人旅行者の推移です。1年単位で見ても観光客は、急回復しています。
https://statistics.jnto.go.jp/graph/#graph–inbound–travelers–transition
同じく日本政府観光局によると2023年の年間での訪日外国人旅行者数は、推計で2506万6100人となり、コロナ前の8割まで回復。2022年と比べると、一気に2000万人以上、増加した、ということです。
▼ 円安の恩恵 ~観光客の経済効果~
外国人観光客が、日本中、どこにいっても目立つようになっていますが、その経済効果には絶大なものがあります。
観光庁のまとめによると、訪日客の消費が新型コロナウイルス禍前を超え、2023年の訪日客の旅行消費額は計5兆2923億円となって過去最高となりました。
▼ 国際収支の統計にも好影響
海外からの旅行客の回復は、日本経済にもインパクトを与えています。国際収支の改善にも大きく貢献しています。
5月のニュース
財務省と日本銀行がまとめた23年度の国際収支状況(速報)によると、海外とのモノやサービスの取引の流れを表す経常収支におけるサービス収支のうち、旅行収支は4兆2295億円の黒字だった。14年度以降10年連続の黒字で、比較可能な1996年度以降では最大となった。黒字幅は前年度から3兆660億円も拡大した。
経常収支の黒字額が前年度と比べ約2・8倍の25兆3390億円となった。比較可能な1985年度以降で過去最大だった。海外とのモノの取引を示す貿易収支は3兆5725億円の赤字だったにもかかわらず、訪日客が大幅に増え旅行収支の黒字額が約3・6倍となったのが大きく影響した。
▼ 企業業績も絶好調
円安の恩恵は、観光客だけにとどまりません。
2024年3月期決算発表でも企業の好調な業績が裏付けられています。
例えば、トヨタは、昨年度(2023年度)1年間のグループ全体の決算で、売り上げにあたる営業収益は前の年度から21.4%増えて45兆953億円となり、過去最高を更新。
本業のもうけを示す営業利益は96.4%増えて5兆3529億円、日本の上場企業で初めて5兆円を超えました。
ハイブリッド車を中心に販売が好調だったことや、円安で利益が押し上げられたことが主な要因としています。円安で6850億円の利益の押し上げ効果があったと説明しています。
トヨタに限らず、製造業は概して業績が改善していますが、歴史的な円安の影響が大きく、海外事業のもうけが円換算で膨らんだことで、増益幅が広がっています。
ということで、今回は歴史的な円安がもたらしている様々な変化を追ってみました。行き過ぎた円安は経済に悪影響を及ぼすという、世の中の論調がありますが、一方で、円安がさまざまな局面で恩恵ももたらしているのもまた事実です。
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