マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。
目次
【第7回】 池田龍也 の ちょっと気になるニュースから 「石破自民党のキーワード ~経済再建への道筋~」
池田龍也⇒プロフィール
▼ 総選挙後の日本経済はどうなる?
総選挙の結果はみなさんご存じの通りの結果となりました。明けた月曜日10月28日の東京株式市場では、日経平均は大幅に値上がりし、前週末より691円余り高い3万8605円53銭となりました。
外国為替市場が円安に動いたことから株価の値上がりにつながった、という市場関係者の分析がありました。
▼ 石破自民党と経済政策
自民党の総裁に石破氏が選ばれてから、経済政策、日本経済の行方についても、さまざまな情報、分析、評論が飛び交ってきましたが、方向性がバラバラで何が事実関係で、何が評論、意見なのか、場合によっては事実関係のような書き方なのによく読んでみると、実は書いている人の意見だった、とか、なかなかクリアーな実像が見えなくなっているような気がします。
ここでは石破氏の語っていること、起きたことなど、事実関係に即して、いくつかのポイントを見てみたいと思います。
▼ 「石破ショック」=総裁選のあと株式市場が大きく反応
(首相官邸ホームページより)
ひとつめは、自民党総裁選後のマーケットの反応です。
【市場は石破政策にNO?】 ~ニュースより~
石破氏が自民党新総裁に就任して最初の取引となった9月30日の東京市場では、日経平均が、石破新総裁の経済政策に対する警戒感などから全面安の展開となり、一時、2000円以上急落、終値でも1910円の値下がりとなり、過去5番目の下げ幅となった。総裁選後の初日の下落率としては、1990年以降で最大となった。
市場関係者の分析では、利上げに慎重な姿勢を示していた高市氏ではなく石破氏が総裁になったことに加え、石破氏が増税の可能性について言及している点も警戒感が広がる一因だったのではないかという。
▼ 日銀の金融政策をめぐるドサクサ(総裁選の後)
ご承知のように、現在、日米の金利動向がどうなるのか、関係者はピリピリしながら当局の一挙手一投足を見守っている状況になっています。
石破氏は総裁選のあと、「日銀と適切に連携しながら日銀が判断することだ」としながらも、「政府としては今の経済状況で金融の緩和傾向はなお維持していかなければならないと思う」と述べていました。
しかし、石破氏は10月2日、植田和男日銀総裁と会談後、記者団に対して「日銀の政策について政府としてあれこれ指図をするような立場にはない。引き続き連携を密にしながら日本経済が発展していくようにと考えている」と述べました。
ここまでは一般論ですが、このあと総裁選後の発言よりもさらに踏み込んで、以下のように話しています。
その上で「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない。『これから先も緩和基調を維持しながら経済が持続的に発展し、デフレの脱却に向けて推移していくことを期待している』と植田総裁に申し上げた」と述べました。
市場関係者は「この発言があって円安が急速に進んだ、また想定している12月会合での追加利上げの確度はやや低下したのではないか」と分析、9月27日の自民党総裁で石破氏が選出された後、1ドル=141円台に上昇した円相場は、10月3日に一時1カ月ぶりの147円台まで売り戻される結果になりました。
▼ 石破氏の経済運営の基本政策
マーケットの反応ではなく、石破氏の経済政策の基本スタンスはどのようなものなのでしょうか。総裁選後、9月27日の記者会見で、石破氏は、物価高を上回る賃上げの実現が必要としました。つまり、実質賃金を引き上げる必要があると明言しました。
総裁選でも石破氏は、GDPを増やすには、その過半を占める個人消費を回復させなければならない、としていました。賃金は上がり始めたが、物価も上昇するため、実質賃金が上がらない、このため、個人消費が伸びない、GDPも成長しない、というわけです。
石破氏が提案しているのは、第一に最低賃金の引き上げ。2020年代に最低賃金を全国平均1500円にまで引き上げる目標を掲げています。これは、岸田政権の目標であった「30年代半ば」からのかなりの前倒し。
第二は価格転嫁。賃金が上げられない理由としてコストが上がっても価格への転嫁が難しいという現実があるということから、価格転嫁対策を強化するため、下請け法の改正案を次の通常国会へ提出する方針。
そして、第三が財政支出。「個人消費が低迷をしている状況において、財政出動がなければ経済がもたない。機動的な財政出動を、最も効果的な時期に行っていく」と説明しています。そして、3年間でデフレからの完全脱却を確かなものとするとの決意を示しています。
▼ 増税論議は当面後退したのか
課税最低限の問題、いわゆる「103万円の壁」をどうするかが、議論の焦点になっています。(※原稿執筆時点)
これは実現すれば、明らかに働く人々に対する減税を進める方向に舵を切る政策転換になります。
石破氏は、自民党総裁への就任当初、マーケットで増税論が懸念されたこともあったためなのか、法人税の増税や金融資産所得課税の強化といった議論は、あまり前面に出さなくなったようにみえます。
しかし、増税論議は、イコール財源の議論になるわけで、減税分にかわる財源を誰が負担するのか、その論議は、当然、これから必要になってくるものと思われます。目先の減税論議だけでなく、その財源も含めた対策をどう展開するのかも、石破氏の手腕が試される時です。
▼ 近著を読んでみた
手元に、
「保守政治家 わが政策、わが天命」 著者 石破茂 編 倉重篤郎
という本があります。
今年の8月7日発行。ご本人が書いたというより石破氏のインタビューを毎日新聞の記者がまとめたもの、ということですが、石破氏の考えや自民党の中での立場、主張がはっきり書かれていています。
▼ 「異次元緩和」では日本経済は治らない
経済政策でいえば、アベノミクスに対する否定的な立場は明確です。以下、ちょっと長くなりますが、その本からの引用をご紹介します。
「アベノミクス」とは一体何だったのか、その功罪についてきちんと評価すべき時が来たのではないでしょうか。(中略)
異次元緩和には一定の効果がありました。円高・株安傾向だった日本経済が反転して円安・株高にシフトし、輸出製造業を中心に収益が増大し、失業率は低下、新卒学生の就職状況も随分と改善されました。(中略)
問題は、この異次元と呼ばれる、ある意味禁じ手的な政策を、当初の段取り通り、
2年間限定の短期集中的なものとして使っていれば良かったのですが、これを延々と10年続けてしまったことでしょう。その結果、国家財政と日銀財政が悪化してしました。(中略)
実はアベノミクス前の名目GDPと、安倍総理退陣時のそれを比較すると、何とドルベースでは2割強縮んでしまっています。(中略)
カンフル剤で時間稼ぎをしながら、アベノミクスの3本目の矢であった成長戦略につながる構造改革を大々的に実施して、生産性の向上を図ることこそが、日本経済の病に対する治療法だったのではないでしょうか。金利のつかないお金が大量に市場に出回ったことで、企業が金利負担という資本主義における付加価値創造能力を失い、安きに流れた面があったのではないでしょうか。
▼ 何をめざすのか
石破氏が、金融の正常化、課税の適正化、強力な成長戦略などを実現することができれば、失われた30年といわれてきた日本経済の現状打開、デフレ脱却がなかなか断言できない状況を脱却できるかもしれません。
しかし、総選挙で示された民意は、圧倒的な与党支持ではなく、逆に与党過半数割れ、ということで、結果的に、国民は、合意形成型、野党の提案にも耳を傾けながら、着地点を探っていく政策運営の流れを選んだことになるのではないでしょうか。
石破氏は先の近著の中で、以下のように語っています。
「もし私などが首相になるようなことがあるなら、それは自民党や日本国が大きく行き詰まった時なのではないか。しかも、それは天が決めること。天命が降りない限り、それはありえないことでしょう。」
と自嘲気味に記しています。今回の選挙で選ばれた政治家だけでなく、政策運営に関わる方々すべてが、このような「大きく行き詰った時」であることを共有できていれば、道は自ずと見えてくるであろうと信じたいのですが、果たしてどうなっていくのでしょうか。
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