マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。
目次
経済ニュースを見るための10本の柱
シリーズ企画、経済ニュースの取扱説明書。経済ニュースの10本の柱は以下の通りです。(私見もふくめています)
① GDP
② 金融政策
③ 日本の財政
④ 景気動向を見る主な経済指標
⑤ マーケットの動き
⑥ 消費動向
⑦ 貿易
⑧ 企業活動
⑨ 世界経済のポイント
⑩ 高齢化社会の課題と諸問題
今回のテーマは、「金融政策」です。
池田龍也⇒プロフィール
意外と身近な金融政策
金融政策というと堅苦しい感じになりますが、ひとことでいうと世の中に出回っているお金の流れをコントロールするということです。
いまの日本は超低金利政策の真っ只中にあります。
金利は、金融機関にとっても、もちろん重要ですが、企業にとっても、運用に大きく関わりますし、資金調達にも大きく関わります。
個人にとっても、住宅ローンの借り入れや資産運用に大きく影響してきます。
金利も含め、お金の流れを適切に管理・運営しようというのが金融政策です。
日本の中央銀行、日本銀行がこの金融政策を一手に担っています。
お金のジャブジャブ状態
「お金のジャブジャブ状態」という言い方をよくします。
金融市場をひとつのプールとします。
ここで、企業や個人が、お金を貸したり借りたり、運用したりしています。
プールの水がお金だとすると、水が少なければ、水の価値は上がり金利は高くなります。
そうすると、経済活動は抑え気味になります。
水が十分あれば、経済活動の動きは活発になる、はずです。
日本銀行はこのプールに十分なお金を供給して、「ジャブジャブ状態」にして、お金を使いやすくして経済活動を活発にしようとしています。
日銀の金融政策
「日本銀行は物価の安定と金融システムの安定を目的とする日本の中央銀行です」
日本銀行の説明です。
そして金融政策は定期的に開かれる決定会合で決まります。
以下、日本銀行の説明。
「金融政策決定会合では、年に8回、2日間かけて集中的に審議を行い、金融政策の方針を決定しています。議決は9名の政策委員(総裁、2名の副総裁、6名の審議委員)による多数決によって行います」
ということです。
4月末の金融政策決定会合で決まったことは以下の通り。
お金「ジャブジャブ状態」を、専門的に表現すると、この発表文のようになります。
日本銀行の発表文「当面の金融政策運営について」
https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2023/k230428a.pdf
(池田註:何と難解な言い方なのでしょう)
ひとことでいえば「大規模な金融緩和策の維持・継続」ということになります。
お金「ジャブジャブ状態」はそのまま、ということです。
アベノミクスとともに歩んだ 黒田前総裁の10年
この10年の金融政策は、安倍前総理大臣が掲げたデフレ脱却プラン「アベノミクス」の三本の矢のうちの第一の矢として位置づけられ、それは「大胆な金融政策」そして「金融緩和で流通するお金の量を増やし、デフレマインドを払拭」と書かれました。
2013年3月20日、日本銀行の総裁に就任した黒田東彦氏は、就任後初の政策決定会合後の会見で、以下の3つの数字「2」を挙げて「大胆な金融政策」を明確な目標とともに示しました。
- 2 % 物価の安定目標
- 2年 達成期間、できるだけ早期に
- 2倍 マネタリーベースは2年間で(マネタリーベースとは資金供給量)
黒田前総裁の政策は、「異次元の金融緩和」「黒田バズーカ」などともいわれ、デフレ脱却への決意を内外に示しました。
そのために、
・金利は超低金利を維持する
・大量の国債を購入する
など、さまざまな政策を打ち出しました。
黒田前総裁の退任会見のポイント
「2年で消費者物価2%」の目標は、何回も先送りとなり、そのうち目標年限もなくなりました。
これについて黒田前総裁は、
「2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現までは至らなかった点は残念であります」
「15 年続きのデフレの中で、いわゆる物価・賃金が上がらないという慣行、考え方、ノルムというものが根強くあったということが非常に大きかったというふうに考えておりますが、今やそれも変容しつつあるということで、2%の物価安定目標を安定的・持続的に達成できる時期が近づいているというふうに思っております」
としています。
また金融政策だけで、物価上昇、デフレ脱却を目指すのは、無理があったのではないか、という指摘がありますが、これについて黒田前総裁は、
「財政政策は直接的に投資をしたり、消費をしたりするという意味では、非常にダイレクトな政策なのですけど、金融政策というのは、ちょっとインダイレクトな、金融システムに影響を与えることを目的にしているのではなくて、金融システムを通じて経済、実体経済に影響を与えるってことを目的にしているわけですので、そういう意味では、ある意味で財政政策と違った難しさというか、そういうものがあるなという気はしましたですね」
とやんわりと難しさを認めています。
黒田前総裁退任記者会見(2023年4月7日)より
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2023/kk230410a.pdf
日本の国債の半分以上を日本銀行が保有している
もうひとつ指摘されていることは、国債発行残高の半分を日本銀行が保有していることです。
国債の購入などを柱とする大規模な金融緩和策を進めた結果、去年末で、日本銀行が保有する国債は、547兆円と過去最大となり、国債発行残高の52%を占めるまでになっています。
本来、金利は市場で決まってきますが、政策で超低金利に抑えられているため、市場の機能が働きにくくなっています。
一方、金利が安いため、政府は国債を発行して借金し易い状況です。
この状態をいつまで続けるのか、も大きな課題です。
植田新総裁のキーワードは「レビュー」
4月の金融政策決定会合では、以下の点が注目されました。(赤字は筆者)
「金融緩和策は、わが国の経済・物価・金融の幅広い分野と、相互に関連し、影響を及ぼしてきた。このことを踏まえ、金融政策運営について、1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビューを行うこととした」
植田新総裁の執行部は、これまでの金融政策をまずは「レビュー」すると明言しました。
この25年間の金融政策が何をもたらしたのか、実体経済にどういう影響なり効果をもたらしたのかを、みていくと宣言したわけです。
黒田劇場の幕は下り、新たに植田劇場がスタートしました。異次元の金融政策はどうなるのか、今後の金融政策決定会合を注目していきたいと思います。
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