マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。
目次
経済ニュースを見るための10本の柱
シリーズ企画、経済ニュースの取扱説明書。経済ニュースの10本の柱は以下の通りです。(私見もふくめています)
① GDP
② 金融政策
③ 日本の財政
④ 景気動向を見る主な経済指標
⑤ マーケットの動き
⑥ 消費動向
⑦ 貿易
⑧ 企業活動
⑨ 世界経済のポイント
⑩ 高齢化社会の課題と諸問題
今回のテーマは、「日本の財政」についてです。
池田龍也⇒プロフィール
国のお財布事情
国の財政、というとなんだか難しくなりますが、「国のお財布事情」と考えると、急に身近になるような気がします。
要は、財布に入ってくるお金と出ていくお金のやりくりということです。
個人なら、働いた収入と月々どれくらいお金を使っているかの支出とのバランスです。
よくFP相談で、以下のような図を示して「収入と支出のバランスが大事です」と説明します。
図のように左の支出が大きい場合、赤字を避けるためには、
- 支出を減らすか
- 収入を増やすか
- 資産を取り崩すか、運用して増やすか
不足分をどうにかするためには、この3つの選択肢がポイントです、と説明したりします。
国のお財布事情でも、まったく同じですが、その辺を見ていきたいと思います。
国のお財布事情は「ワニの口」
下のグラフが財務省の資料です。
財務省の説明は以下の通り
「これまで、歳出は一貫して伸び続ける一方、税収はバブル経済が崩壊した1990年度を境に伸び悩み、その差はワニの口のように開いてしまいました。
また、その差は借金である公債の発行で穴埋めされてきました。
足もとでは、新型コロナウイルス感染症への対応のため、歳出が拡大しています。」
要は、国のお財布事情は、赤字続きなんですが、グラフの中にも書いてある通り「借金で穴埋め」してきているわけです。
足りない分は国債などを発行し、急場をしのいでいますが、ここ30年、そういう状況が、ほとんど改善されないまま、今に至っています。
財務省資料より
https://www.mof.go.jp/zaisei/current-situation/situation-dependent.html
2023年度予算の資金はどう賄っているか
2023年度予算案では、一般会計が初めて110兆円を超え、35.6兆円の新規国債の発行を予定しています。
一般会計の歳入総額は114.4兆円。税収等だけでは歳出全体の約2/3しか賄えておらず、残りの約1/3は公債金(借金)に依存しています。
財務省資料より
https://www.mof.go.jp/zaisei/financial-structure/financial-structure-01.html
大幅赤字の背景
国の財布の支出(歳出)をみてみます。1990年と2022年を比較すると、規模は66.2兆円から107.6兆円へと増えています。
その背景には、社会保障費が3倍以上に増え、歳出全体の三分の一を占めるまでになっています。
それと借金にあたる国債費が10兆円増えているのがみてとれます。
財務省資料より
https://www.mof.go.jp/zaisei/aging-society/index.html
社会保障費はどうなっているのか
では大きな負担となっている社会保障費はどうなっているのでしょうか。
下の図を見てください。
高齢化に伴って年金や介護、医療への支出が増え、保険料だけでは賄えず、税金や借金で補填していることが分かります。
そして財務省は、その税金と借金の総額は、下の図のように、この30年で3.7倍に増えてきたと説明しています。
財務省資料より
https://www.mof.go.jp/zaisei/social-security-and-finance/index.html
プライマリーバランス
去年末の日本の国債発行残高は1005兆7772億円となり、初めて1000兆円を突破しました。
借金が増え続ける日本の財政の状態を心配する方々は、「このままでは日本は財政破綻する」「国民ひとりあたり800万円を越える借金を放置していいのか」と危機感を訴えます。
そこで基礎的財政収支、プライマリーバランスというという考え方がでてきます。
その年度の収入でその年度の支出を賄う、というものです。
プライマリーバランスとは、下の図でみると、左下のブルーのところが政策に使う経費、これを税収(緑色の部分)で賄えるようになっていれば、プライマリーバランスがとれている、あるいは黒字化ができているということになります。
しかし現状では、10兆円余りの赤字になっています。
つまり借金で埋め合わせをしています。
財務省資料より
https://www.mof.go.jp/zaisei/subject/subject-03.html
財政再建
「財政再建」って皆さん一度ならず聞かれたことがあると思いますが、国の財布は、このところずっと、税収よりも支出の方が多くなって、借金体質になったまま、現在に至っています。
20年ほど前から財政再建、財政の健全化が叫ばれるようになりました。
2004年6月 「骨太の方針」で「プライマリーバランスの黒字化」という考え方が本格的に登場。
2013年6月 「骨太の方針」で「国・地方のプライマリーバランスについて、2020年度までに黒字化目指す」
2018年6月 「骨太の方針」で「黒字化目標を2020年度目標から2025年度に先送り」
そして、ことしの1月、鈴木財務大臣が財政演説で、2025年の黒字化目標を再確認しました。
あと2年です。
いろいろな論議がある
日本の財政事情は以上のような状況です。
支出は増え続けていますが、収入がそれに伴って増えてはいないので、赤字が拡大する構造です。
収支を改善するためには、
- 税収を増やしていく
- 社会保障の支出を減らしていく
- 社会保障費の自己負担分を増やしていく
など様々なことが考えられますが、増税や社会保障のサービスの削減、自己負担の増加は国民に不評ですから、なかなか大胆な解決策がみつかりません。
日本の国の財布を預かる財務省はこの借金体質が続けば、
- 日本の国債や通貨への信認が失われるリスクがある
- 様々な負担を将来の世代へ先送りすることになる
- 財政の余力(ゆとり)がなくなる
などマイナス面が大きくなると説明しています。
一方で、日本経済が「失われた20年」あるいは「失われた30年」などといわれるのは、こうした予算構造を変えないからだ、という指摘もあります。
財政再建を最優先にすると、どうしても税収の範囲内で政策的経費を使う傾向が強くなり、思い切った財政出動に踏み切りにくくなる、という面もあります。
そして財政出動をしぼると、経済はいつまでも低迷し、税収は悪化、結果的に財政も悪化していく、という立場です。
財務省が説明するように借金体質をそのままにするのはよくないのか、あるいは、その議論はひとまずおいて、まずは積極的な財政出動も含め、日本経済が元気になる方策を模索してみるのか、難しいところです。
積極財政の論点は、個人の家計になぞらえれば、借金してでも、積極運用すべし、というようなことになるのかもしれず、なかなか、悩ましいところです。
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