池田龍也 の 経済ニュースよもやま話 第11回 経済ニュース10本の柱 「世界経済のポイント」

マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。

経済ニュースを見るための10本の柱

シリーズ企画、経済ニュースの取扱説明書。経済ニュースの10本の柱は以下の通りです。(私見もふくめています)

① GDP
② 金融政策
③ 日本の財政
④ 景気動向を見る主な経済指標
⑤ マーケットの動き
⑥ 消費動向
⑦ 貿易
⑧ 企業活動
⑨ 世界経済のポイント
⑩ 高齢化社会の課題と諸問題

今回のテーマは、「世界経済のポイント」についてです。

池田龍也プロフィール

世界経済をどう見ていけばいいのか

世界経済というと、範囲が広すぎて、とらえどころがないようなイメージですが、ひとつひとつの国、あるいは地域を見ていけば、それが世界経済の動きにつながっていきます。

30年あまり前のソ連崩壊で、経済がグルーバル化して以来、ひとつの国の動きが世界と連動し、世界の動きがまた各国の動向に影響するという相互に依存、相互に影響を及ぼしあう関係、構造が顕著になってきました。

直近では、ウクライナ情勢がすぐにエネルギー価格や穀物価格の高騰につながったことは記憶に新しいところです。中東情勢の緊迫も、原油などの海上輸送ルートの変更につながったり、輸送価格の高騰につながったりしています。

中国の自動車産業の実相

まずは、最近何かと話題となっている中国経済のニュースです。中国の自動車産業を例にとってみてみます。2月初め、以下のニュースが流れ、日本の産業界に激震が走りました。

【 自動車輸出 中国が初の首位 】(2月2日)
世界各国の自動車輸出台数で中国が2023年に日本を抜き、初めて首位となった。中国の輸出台数は、2023年より58%増えて491万台に。電気自動車の輸出が増えたことに加えて、日本や欧米メーカーが撤退したロシア向けのガソリン車の輸出が増えたことが主な背景。日本の自動車工業会が発表した日本の輸出は442万台にとどまり中国がトップに躍り出た。

さてこのニュース、「躍進する中国経済」という文脈で見ると、「自動車産業でも日本を抜き去る」ということになります。わかりやすいニュースなのですが、よくよく数字をみてみると、「はてな?」ということになります。

といいますのは、直前に「トヨタ4年連続販売世界一 初の1000万台越え」というニュースが流れたばかりだったからです。中国の輸出台数が491万台、トヨタの販売台数が1123万台、どちらも2023年の1年間の統計数字、ますます訳が分からなくなります。

日本と中国の自動車工業会が発表した2023年の統計数字をもとに比較してみましょう。

生産 販売 輸出
中国 3009万4000台 3016万1000台 491万台
日本 2579万6411台  2481万0650台 442万台

この数字を見れば、中国の自動車産業が、大躍進していることは間違いありません。ただ中国の場合、3016万台の販売のうち2518万台が中国国内向けになっています。実に販売台数全体の83%が中国国内向けであることがわかります。中国国内市場の急拡大が、中国の自動車産業の実力を大きく見せているのもまた事実です。

日中自動車産業の実力比較

中国の自動車産業が、自国以外の国際市場で販売しているのはざっと500万台、その大半が中国からの輸出です。これに対して日本の自動車産業は、国内販売がおよそ478万台なので、国際市場での販売台数はざっと2000万台です。日本からの輸出は442万台なので、日本の自動車産業は海外の生産の方が圧倒的に多くなっています。国際市場での存在感でいうと以下の通りです。こう見ると日中逆転です。

中国 500万台
日本 2000万台

つまり輸出の数字だけを見て、中国トップというのは、実態を踏まえた議論ではないような気がします。日本の自動車産業は世界市場でまだまだ大きな存在感を保っており、輸出だけではなく、国際的な生産体制を見てみれば、中国が日本を凌駕したわけではないことは容易に理解できると思います。

もちろん、中国経済の力強さや躍進を否定するものではないのですが、「中国経済、すごい!!」という固定観念をもってみていると、それが先入観となって、すべてが、そのベクトルの方向に見えてきて、公平なニュースとして扱われなくなるという一例だと思います。

王毅さんのイメージ

中国に関する記事で、最近「へえ、そうなんだ!」と思ったことがあります。それは何かというと、中国の外交の顔ともいうべき王毅氏のことです。駐日中国大使も務め、いまは中華人民共和国国務委員兼外交部長の王毅氏です。

 

 

 

 

(外務省ホームページより 左が王毅氏)

日本への抗議の際の厳しい表情と口調が印象に残っているので、「こわもての人」といったイメージが定着していると思いますが、どうもそうでもないそうなんです。
月刊「文藝春秋」2月号で「駐中国大使、かく戦えり」という連載が始まりました。前中国大使の垂秀夫氏がご自身の経験や外交への思いを綴った回顧録です。その中で、王毅氏のことを次のように紹介しています。

実は、昨年の春くらいから、王毅外交部長から日本側に、「戦略的互恵関係に戻ろう」というメッセージが何度も発せられていました。
駐日大使も務めた王氏とは前から面識があり、先輩外交官として敬意を払ってきました。彼はいわば「役者」ですから、抗議するときは物凄く怒った振りをしますが、少人数で会う時は物腰の柔らかい、穏やかな方です。

私自身が先入観にとらわれていたため、かなりびっくりしました。王毅さんって本当はそういう人なんだ、と。
それ以上に驚いたのが、中国側が、日本に対して「互恵関係」に戻ろうという意向を示している、という点です。日中関係は冷え切っているのかと思っていましたが、どうも流れが変わってきているようです。
自らの認識不足を恥じた次第です。先入観を持たずに情報を見ていくことの難しさを改めて痛感した次第です。

アメリカ経済の行方にも世界が注目

今回中国の話ばかりになってしまいましたが、もちろんアメリカ経済の動向は世界中の人が注目しています。

特に今、アメリカ経済の先行きに対して、関心が高まっています。過熱気味だった経済が落ち着くのか、あるいはまだまだインフレへの圧力が残っているのか、政策当局者もそれを見極めようとしているのだと思います。最新のニュースは以下の通り。

【アメリカのFRB 金融政策決定会合 4会合連続で政策金利「据え置き」決定】(1月31日)
アメリカのFRB=連邦準備制度理事会は金融政策を決める会合を開き、31日、4会合連続で政策金利を据え置くことを決定、現在の5.25%から5.5%の幅を維持。パウエル議長は次の3月の会合で利下げを決める可能性は高くないと述べ、早期の利下げ期待をけん制。
 

アメリカ経済

経済過熱=インフレ懸念

政策金利

A まだ続く 据え置き、引き上げ
B おさまってきた 引き下げ

アメリカ経済 経済過熱=インフレ懸念 政策金利 A まだ続く 据え置き、引き上げ B おさまってきた 引き下げ
いまアメリカ経済は、AからBに移ろうとしているわけですが、まだまだAの状況、つまりアメリカ経済は活気があり、過熱状態がおさまったとは言い切れず、だから金利は据え置き、というわけです。

日本もピリピリした展開

一方日本は全く逆で、デフレ状態を脱却したのか、まだまだ分からないという状況が続いています。

 

日本経済

デフレ脱却 政策金利
安定的に賃金の上昇を伴って2%の物価上昇まだ続く 引き上げ
まだまだ不安定、不透明 据え置き、引き下げ

日本は②から①に移ろうとしているのですが、まだまだ明確な見通しは立っていないと日本銀行は説明しています。

経済の先行きがどうなるのか、中央銀行がどう判断するのかによって株価も大きく動きますし、また日米の金利差がどうなるかによって、外国為替市場もピリピリとした動きがこのところずうっと続いています。

今回は中国、アメリカの最近の動きに焦点を当てて、ご紹介しましたが、時々、世界情勢にも目を向けておくと、経済の大きな流れから離れずに済むと思います。

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