6回目のテーマ <特別支援学級>繰り返し学習で育てる!「お金を使う力」
『親子のためのお金教育の専門家』、元銀行員・ファイナンシャルプランナーの横井規子です。
「このままじゃ、将来、お金で失敗しちゃう!」
我が子のお金のしつけをやり直した経験から、金融教育が重要と実感。それをきっかけに親や子のためのお金の授業をスタートし、これまで300校、17,000人が受講しています。
学校授業での経験や金融教育について、1年間お伝えしていきます。
横井規子⇒プロフィール
「障がいのある子に金銭教育はできない」と、あきらめる親もいますが、果たしてそうでしょうか。繰り返し教えることで、力がついていった子供達がいます。小学校特別支援学級でのお金の授業をご紹介します。
目次
お金を残すことを考える前に、まずは金銭教育を!
お子さんに障がいがあるという方の多くが、自分が亡くなった後の子供の生活を心配されているものです。それに備えて、できるだけお金を残したいと考える方もいらっしゃいます。
・「子供にどのくらいお金を残したらいいですか」
・「信託を使って残すべきですか。生命保険が良いでしょうか」
・「相続はどのように考えたら良いでしょうか」
というご相談をいただきます。
就労収入や障害年金は見込めるものの、子供はどこまで収入を伸ばせるか、いつまで働くことができるのか心配で、できるだけお金を残したいようです。しかし、十分なお金を残したとしても、果たしてそのお金をお子さんはきちんと使うことができるでしょうか。
・収入を数日で使い切ってしまって食べ物を買えず、しばらく水と塩で暮らしました
・親が残した大金を、ギャンブルやFX等の取引きで、一気になくしてしまいました
・仕組みがわからないままクレジットカードを作り、買い物を重ねて払えなくなりました
・「高収入になる」と声をかけられ、詐欺の被害にあってしまいました
このようなお金のトラブル事例を耳にします。
こういったことを避けるためにも、まずは、子供にはお金の大切さを教え、お金を上手に使うことができる力をつけさせることが大事なのではないでしょうか。
しかし、「うちの子にお金の教育は無理」と話す方もいらっしゃって、お金を使う体験をさせていません。確かに、同じ年齢の子と比べて、理解できない、お金を使うことができないと感じることもあるかもしれません。でも、重度の知的障がいのあるお子さんが買い物をしている様子を見たことがあります。じっくり継続して学習することで、できること、分かることが増えていくのではないでしょうか。子供の可能性も広がっていくことでしょう。それを、ある小学校特別支援学級の子供達から感じました。
金種や物の値段の大きさがわからない子供達
2年連続、道内のある小学校特別支援学級でお金の授業をさせていただきました。事前にご担当の先生に話を伺ってみると、生活の中で使うことを避けられないお金を子供達に教えていきたいが、やり方がわからないということでした。コロナ禍もあり、買い物体験の機会も設けることができていません。そういった話を聞き、教室内で体験型のお金の授業をしようと考えました。
家庭のなかでお金のことを教わっていない子が多いと聞いたことから、まずは子供達がどのくらいお金の種類を理解しているのか、指定された数字と同じ硬貨を出すことができるのか様子を見てみました。黒板に「348円」と記入したら、その金額になるように、100円玉や10円玉等の硬貨を出してもらいます。金種の勉強が未経験の子供でもスムーズにお金が出せるように、下の写真のような「お金を並べて理解するシート」を一人一人用意しました。
このシートの使い方ですが、まずは1番下の大きな3つの空欄に金額を書かせます。348円を出させたかったら、3と4と8の数字を書いてもらいます。ピンク色のマス目の上に100円硬貨の写真がありますが、そのマス目に100円硬貨を3枚並べてもらいます。緑色のマス目には10円硬貨を4枚、黄色のマス目には1円硬貨を8枚並べるというように、数字と写真を見てどの硬貨を何枚出すのか確認し、ぴったりお金を払う練習をさせてみました。
このシートのおかげか、戸惑うお子さんはほとんど見られませんでした。しかし、10円硬貨を10枚並べると100円になることや、50円硬貨やおつりの概念が理解できないお子さんも見られました。300円と400円の商品を見比べてみて、どちらが金額が大きいのかを理解できない様子も見られました。
イラスト入りカードで買い物体験
後半の買い物体験では、一人500円を渡し、そのなかで「学校で使う文房具」を必ず買い、残りのお金で「買ってみたい物」を買わせてみました。必要な物を買いながら、欲しい物を買う練習です。
これまでも、いくつかの学校にお伺いしてお金の授業をさせていただきましたが、先生から、「必要な物と欲しい物の違いを教える発想がなかった」とよく言われます。
しかし、私達大人は、限られたお金の中で必要な物にお金を使いながら、欲しい物を購入したり、サービスを利用しています。将来、一人暮らしをして、家計をやりくりする子供もいることでしょう。ですから、こういう考え方を教えておくことは必要だと考えています。
授業の中で買わせる必要な物は、学校で使う文房具としました。本物の商品は用意できなかったので、イラスト入りのカードを作りました。「同じものでも値段が違う」ということを知ってもらいたかったので、「デザインが地味」、「においつき」、「値段が高いけれど消しやすい」という特徴がある3種類の消しゴムイラスト入りカードから選択させました。
「文房具だったら高くなくてもいい!」「面白いものがいい!」「いつも使うものだから、消しやすいものがいい!」等と、子供達は考えながら買い物をしました。
さらに、残ったお金で、ジュースやお菓子やガチャガチャ等、私が用意したイラスト入りカードから選択して、買いたい物を買っていきました。
買った後は振り返りも大事です。なぜそれを選んだのかを考え、発表してもらいましたが、その様子から、事前に話を聞いていたよりは子供達は考える力があるという印象を持ちました。もう少し、深く考えて買う体験もできるのではないかと考えたのです。
1年後、継続学習で成長していた子供達
先生方も私のように、子供達の力を感じたそうです。そこで、この授業の後も、何度もお金の勉強をしてくださったようです。与えられた数字を見て硬貨をスムーズに出すことができるようになったり、細かいお金がない場合では、少し大きなお金を払っておつりをもらうことが理解できる子も出てきたようです。実際に子供達と再会してみると、聞いていたとおりだと思いました。
1年前は金種が理解できていなかった子も、自信をもってお金を出していましたし、金額が高いのはどちらの商品なのか、いくら出したら買えるのか等、理解している様子も見えました。たった1年でこんなに変わるのかと、先生方に感謝するとともに、継続的に学習することの大切さを実感したのです。
予算の範囲内で焼きそばの具材を買う体験
力がついたことから、2年目の授業では、ちょうど参観日で保護者の参加もあるので、「おうちの人が好きな焼きそばを作ろう!」と題して、教室内で買い物体験することといたしました。昨年よりはちょっと難しい内容です。なぜなら、家族の好みや量も考えながら、予算の範囲内で焼きそばの具材を買うからです。コロナによる行動制限は緩やかになっていましたが、まだ集団で買い物に行くことはできないため、イラスト入りカードを用意し、本物のお金を使って、教室内で買わせる時間といたしました。
やきそばの麺が150円、キャベツが70円というように、模擬店舗にはどんな食材がいくらで売られているのかをまずは説明します。参観日に参加されている保護者に、どんな食材が入っていたら嬉しいか等と聞いてみたり、家族の好きな具を思い浮かべながら、何を買うのかを予算600円の中で考えていきます。「ピーマンを選んだのは色どりが良いから」というように、その食材を選択した理由も発表してもらいます。お金を全て使い切りたいから、考え直して別の食材を複数買う子もいましたし、無駄にお金を使う必要はないから、必要な物だけ買って貯めようと考える子もいました。電卓を使って計算をしながら買う物を考えていた我が子の様子を見て、驚いている保護者もいらっしゃいました。
ご担当の先生も、今回の子供達の様子を見て、もっと金銭教育を深めていきたいと思ってくださったようです。買い物の計画を立て、実際にスーパーに行って食材を買い、作って食べるという授業を展開したいとおっしゃっていました。これまでも、先生方が1年かけてお金の勉強を続けてくださって力がついてきた子供達です。実際に買い物や調理の体験をすることで更に理解も深まり、将来の生活に役立てることができるものと思います。
このように、繰り返し学習で子供達は力がついていきます。高等支援学校等で、就労に備えてお金の授業を取り入れているところもありますが、小学生の頃から進めていくと、よりスムーズにいくことでしょう。家庭と連携しながら繰り返し学んでいくことで、お金を使う力が増々ついていきます。子供にお金のことを教えていきましょう。
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