岡本英夫のFPウオッチャーだより 第28回  卒業したがん診療連携拠点病院での相談業務③ ~病院での相談業務を開始できた理由~

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

今回は第28回目です。

岡本 英夫 ⇒ プロフィール

がん罹患者との相談と看護師・MSWの役割 

NPO法人がんと暮らしを考える会の一員として医療機関でがん罹患者とその家族からの相談に10数年間にわたって携わってきた。当初は千葉県の大学病院のみであったが、半年後に埼玉県の専門病院が加わり、都内や関西の病院に波及し今日に至っている。この春、相談員を卒業したが、医療機関で相談会を開催するにはそれなりの苦労があった。

医療機関(がん診療連携拠点病院)で相談会を実施するためには、相談会の必要性を説き、企画書を上げ、医師や院長、事務長を説得する人が必要だ。最初の大学病院ではNPO法人の会員でもあった看護師長さんが、2カ所目の専門病院ではメディカルソーシャルワーカー(MSW)さんがその役割を果たされた。
注:メディカルソーシャルワーカー(MSW) その多くが社会福祉士と呼ばれる国家資格を持つ専門家で、医療機関における医療費の相談、介護保険や障碍者手帳の交付や申請に関する手続きの案内、退院や転院に関する連携や準備、患者・家族の悩みごとなどの相談に応じている。 

大学病院も専門病院も多くの利害関係者で構成される組織である。そこで前例のない、お金のかかる取組みを開始するにはそれなりの手続きが必要になる。「それ、むずかしいと思うよ」という同僚、上司・経営陣を説得するには、徒労に終わるかもしれない努力が欠かせないのである。

NPO法人の理事が説明に出向く、プレゼンを行う、院内勉強会で社会保険労務士が就労支援の必要性を訴えたり、FPが患者さん向けに医療費控除の話をしたりしたが、その陰には相談会を何とか開催にこぎつけようとする看護師やメディカルソーシャルワーカーの苦労があった。

予算獲得が最も難しい 

困難を極めたと思われるのが、相談会にかかる経費の捻出である。「NPO法人は非営利組織なんでしょ」「病院も経営は火の車なんだよ。予算が毎年のように削られる中で、新しい支出なんて無理だね」というのは医療機関に限らず経理担当者の常とう句である。通常はここであきらめてしまうものである。

ところが、賛同者が一人ずつ増えていくうちにキーマンとなる管理者が現れる。件(くだん)の看護師、メディカルソーシャルワーカーからNPO法人に対し院長や事務長への面談を要請されることになったのは、このキーマンによる説得があったからだ。ここまでくれば、経費ねん出は内部の調整に委ねられる。

相談会がはじまっても、看護師さん、メディカルソーシャルワーカーさんの苦労は続く。たいていの場合、相談会の周知と受付、相談内容の取次ぎなどを引き受けることになるからだ。院内は慢性的な人手不足だし、相談日の予約が埋まらなければ相談会の継続が難しくなる。相談員としては、頭の下がる思いだった。

相談会の前日には、翌日の相談者の概要と簡単な相談内容がメールで送られてくるが、これとても看護師、メディカルソーシャルワーカーさんからすれば雑務といったほうがよい。過去10年以上にわたって毎月の相談業務が継続したのも、この雑務によるところ大なのである。

実は、これまでにもいくつかの医療機関の担当者(多くは看護師、メディカルソーシャルワーカー)が、がん罹患者のための相談会を実施しようとNPO法人を尋ねてこられた。協力は惜しまないのだが、多くは組織の壁に阻まれ続けているようだ。あきらめず何とか突破口を探してほしいと思う。

担当者交代時が心配

幸いにして、これまで実施してきた相談会は病院内で一定の評価を得ている。心配なのは、この当初の相談会導入に携わった看護師、メディカルソーシャルワーカーさんが転属や退職したときだ。後任となった担当者が前任者の情熱を受け継いでいるとは限らない。筆者が引退した時期を同じくして、当初からの担当者である看護師さんが異動になった。

相談業務そのものは病院とNPO法人の契約という形を取ってはいたが、担当看護師と相談員である筆者と、もう一人の社会保険労務士との人間関係で成り立っていたともいえる。担当者が代わるときはピンチでもあるがチャンスでもある。組織も所詮、人間関係で成り立っている。そんなわけで、相談会導入の経緯を紹介してみた。

次回からは、実際にあった相談事例をもとに、相談員としての回答例をいくつか取り上げてみたい。

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