岡本英夫のFPウオッチャーだより 第3回 ブラックマンデーに学んだ「リバランス」 【2022年6月】

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

今回は第3回目です。

岡本英夫プロフィール

歴史に残る「ブラックマンデー」の日に…

近代セールス社・近代FP協会は1986年から2000年まで数回にわたって「米国FP視察団」を派遣した(2001年の米多発テロ以降催行を断念)。
筆者は企画担当者として毎回同行し多くのことを学んだが、今回は第2回の視察(同行講師・太田達男三井信託銀行信託部長)で得た資産運用アドバイスとリバランスの考え方について紹介したい。

1987年10月19日(月)の夕刻に成田を出発した視察団がニューヨークに到着したのは、時差の関係から同日のほぼ同時刻であった(実に不思議に感じた)。

仕事の関係で先乗りしていた信託銀行の財務アドバイザーから、当日の株価暴落を興奮気味に伝えられ、ホテルのテレビはウオール街とロンドン、東京を結ぶ3元中継で株価や投資家の動きを伝えていた。歴史に残る「ブラックマンデー」の日にニューヨークに到着していたのである。

翌日からニューヨーク市内でのエクイタブル生命保険、ケミカルバンク、チェースマンハッタン銀行等への視察が始まった。
いずれもウオール街近くに本店を持つ世界的金融機関であり、視察団は、訪問した各金融機関のFP担当者から株価暴落ついての話をうかがうことになった。

以下は、最初の訪問先であるエクイタブル生命保険のFP部門担当者の説明である。

投資顧問とFPの違い

「当社は投資顧問の会社もFP会社も持っているが、投資顧問会社に多額のお金を預けた資産家は、その大半を株式で運用していたために多額の評価損を出し、動くに動けない状態にある。
ところが、ファイナンシャルプランナーを活用していた人たちは、余裕をもって株価暴落を見つめることができた。
ファイナンシャルプランニングは、お金の運用にあたってはリスクを考え、株式だけでなく預金、債券、ミューチュアルファンド(投資信託)などに上手に分散する。
これにより、今回のような株価暴落時には、慌てずにポートフォリオの見直しを考えることができる。
これがファイナンシャルプランナーを活用したものと、そうでないものとの差である」

「ファイナンシャルプランナーは、顧客の資産を把握し、顧客の希望とゴールを確かめたうえでリスクを考えて分散投資を提案する。そして、状況に応じてプランを見直す。
当社のファイナンシャルプランナーは運用相談に際し、ローリスクの元本確保型商品に20%から40%を、ミドルリスクの運用実績型商品に40%から60%を、そしてハイリスク・ハイリターンの価格変動商品に10%から30%を配分するようアドバイスしている。

真ん中の数字をもとに例を示せば、1万ドルを運用資金であれば元本確保型商品である預金・債券に3000ドル、ミドルリスク商品である投資信託、変額保険に5000ドル、そして、ハイリスク・ハイリターン商品である株式等に2000ドルということになる。
この比率はファイナンシャルプランナーによっても異なるし、顧客のリスク許容度によっても異なってくる」

「今回の株価暴落では2000ドルの部分が大きくへこんだ。5000ドル部分にも影響が出ているが、この部分はファイナンシャルゴールに向かっての長期投資のウエイトが大きい。3000ドルは安泰である。この場合、元本確保の3000ドルの一部を解約して、へこんだ2000ドル部分を補うことも選択肢である。
実際に、暴落の翌日からそういう相談の電話が入ってきている。“シアーズ(当時の米流通産業大手)は今が買いではないか”と。
この顧客とは、週末に面談する予定だが、今回のような暴落時は、ポートフォリオの見直しがポイントになる」

グッド・クエスチョンへの回答

ここで視察団の中から質問が出た。

「今回のニューヨーク市場は暴落だが、日本ではここ数年、株価は上昇を続けている。今の話では、ハイリスク・ハイリターンの2000ドル部分が3000ドル、4000ドルと大きくなっている状況だ。この場合のアドバイスは、どのようにするのか?」

「いい質問だ(グッド・クエスチョン!)。実はこちらのほうががむずかしい。これまでに申し上げた配分を前提とすると、ハイリスク部分は当初の資産配分の20%を大きく超えている。一部を売却して、元本確保型商品やミドルリスク商品とのバランスを30%、50%、20%に戻すことが必要だ。
資産全体のバランスをとりながら、全体としての資産額を大きくしていくべきなのだ。
ところが、株で儲かったのだからと再び株に投資する。売ったお金で贅沢をする。放置したまま値下がりの憂き目にあう人がいかに多いことか。
そういうことにならないようアドバイスするのがファイナンシャルプランナーなのだが、自分は天才だと思ってしまっていて、聞いてくれないことも多い(笑い)」

ブラックマンデーからからはじまった2週間の視察では、株価暴落に際し「だからファイナンシャルプランニングが必要なんだ!」という話を何度も聞いた。

帰国後、筆者は、資産形成・運用アドバイスに際し、元本確保型商品に40%から60%、運用実績型商品に20%から40%、価格変動商品に10%から30%の資産配分を勧めるようになった。

上述のエクイタブル生命は変額保険の会社だから運用実績型商品の比率を大きくしているが、担当者が述べているように、ファイナンシャルプランナーによって異なるものであっていいし、顧客のリスク許容度によって変更しても構わない。

1987年の視察では「リバランス」という言葉を聞くことはなかったが、これがリバランスの説明であったということは、あとになって気づいた。
その後、わが国でのバブル崩壊、金融パニック、リーマンショックなども経験したが、そのたびごとに、このブラックマンデーに始まる2週間を思い出すことになった。

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