マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。
今回は第14回目です。
岡本英夫⇒プロフィール
筆者は80年代の後半、金融機関向けのFP養成講座(通信教育等)の開発に携わったが、当時の近代セールス社・近代FP協会としての考え方は「ファイナンシャルプランニングは顧客の問題解決型の金融商品販売の手法であり、FP知識は銀行・証券・保険・不動産などのセールスマンの必須知識」というものだった。
筆者のいう「第1次FPブーム」は80年代の後半から90年代前半のバブル期を指すが、銀行・保険・証券等の金融機関だけでなく、不動産業界や税理士業界、流通業界なども独自の視点でFPに参入していた。
その中から2つの業界を紹介してみたい。
いずれも、きっかけは、近代セールス社が実施した 87年の第2回米国FP視察 であった。
TKCファイナンシャル・プランナー養成講座
87年の米国FP視察参加者に、TKC全国会・資産対策研究会から3名の税理士が加わっていた。
この方々の努力でTKC全国会でのFP養成研修が始まることになる。
開講の趣旨は「TKC所属税理士だけでなく税理士事務所に勤務する職員をも対象とし、事務所機能のレベルアップを図る」というものであった。
TKC全国会事務局との折衝を経て金融機関向け通信講座を再編集、88年に「TKCファイナンシャル・プランナー養成講座」を開講する。
この講座は当時の地価高騰と株価上昇による相続・事業承継、不動産対策ニーズに対応しようとするものでもあった。
なお、FP視察に参加された税理士の一人が現在も関西で活躍される山本和義氏(税理士法人ファミリィ代表社員)である。
TKCファイナンシャル・プランナー養成講座は数年間続き数千名が受講した。
また、TKC資産対策研究会に所属する税理士諸氏にはFA誌への執筆のほか、単行本やブックレット等もお願いした。
時あたかも借地借家法の改正・定期借地権の創設などもあって、相続・贈与、不動産活用関係のニーズの高まった時期だった。
西武セゾングループ向けFP研修
同じく、第2回FP視察に2名の西武百貨店社員が参加されていた。
視察先に米国流通大手シアーズ・ローバックが含まれていたが、それ以外の保険会社、銀行などでも熱心にメモを取られていた。
帰国後、半年くらいたって連絡があり、西武百貨店の外商部員向けにFPの話をしてほしいとの依頼を受けた。
百貨店に外商部なるものがあることは知っていたが、研修時に外商部員の話を聞いて納得した。
優秀な外商マンがFP知識を習得すると大きな武器になる。
訪問先には法人先も個人先もあるが、扱う商品は多彩で、しかも当時のセゾングループにはクレディセゾン、朝日航洋、セゾン生命、ピサなどが名を連ねていた。
詳細は省くが、資産家向けに相続税対策を行うにはうってつけの商品群を有している。
外商部から始まったFP研修は、西武セゾングループの研修会社を通じてグループ企業全体に広がった。
研修講師の一部は税理士や信託銀行、証券会社に依頼したが、その講師陣を通じて他の百貨店でも外商部員向けに同様な研修が行われていたことも知った。
最盛期には、東京と大阪、鈴岡で研修会を行い、相続・事業承継、不動産活用・運用を中心にカリキュラムを編成、法人、個人顧客向けだけでなく、セゾン生命単体での研修のほかセゾングループ社員向けのセカンドライフセミナーもおこなった。
講師を派遣する金融機関も概して協力的だった。
バブル崩壊で1次ブーム終焉、第2次ブームへ
バブル崩壊による不動産価格、株価の下落は税理士業界にも西武セゾングループにもマイナスに作用した。
税理士グループも百貨店外商も法人および資産家が顧客対象である。
提案した相続・事業承継対策には見直しが必要になる。
そうしたフォローもおこなったが不良債権問題が顕在化する96年ごろには資産家対策中心のFP研修は下火となった。
TKC全国会向けの通信教育講座は主に事務所職員向けであったことから職員が増えなければ受講者は集まらない。
また、毎年の税制改正で相続対策に縛りが入り、譲渡所得課税が重課されたことも要因である。
流通業界については、多くを語る必要はないと思う。
入れ替わるようにニーズが顕在化したのが、セカンドライフセミナー、保険の第3分野である医療保険販売、保険・住宅ローンを中心とする家計の見直し、投信の銀行販売と確定拠出年金制度創設による投資教育などの分野であった。
これがやがて、FPの第2次ブームを引き起こすことになるのである。
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