岡本英夫のFPウオッチャーだより 第16回 第2次FPブームで何が変わったか ~受験対策偏重の功罪 【2023年7月】

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

今回は第16回目です。

岡本英夫プロフィール

前回述べたとおり、2000年代に入りFP資格取得熱が大きく高まった。
資格取得者数は大幅に増加したが、その実、どうだったのか。
その功罪について述べてみたい。

1.FPコンセプトの形骸化

02年、FP技能検定・学科試験のカリキュラムが公表された。

FPの6分野のついて7(リスクと保険)から18(タックスプランニング)の細目が提示され、資格試験の出題はこの中から行われることになった。
認定教育機関等のFP受験対策講座はこのカリキュラムをもとにテキストの制作、講義、模擬試験等に取り組むことになったのである。

問題点のひとつはいわゆるFP概論が「A ライフプランニングと資金計画」に盛り込まれ、出題数が1~2問程度になったことである。
細目も現在は「ファイナンシャルプランニングと倫理」「ファイナンシャルプランニングと関連法規」とされ、出題内容もいわゆる4Eや税理士法などの関連法規に偏ってしまった。

筆者は、それ以前はもっと詳細にFPのコンセプトや歴史などを語っていたが、ある時「そのお話は試験に出るのですか?出ないのなら次の項目に行ってください」と抗議を受けた。
テキストとして使用するに日本FP協会編集の「FP概論」もあるが、出題ポイントだけ述べるのであれば、15分もかからない。
それまで多くの人を魅了したFPのコンセプトが手薄のなってしまったのである。

また、「ライフプランニングと資金計画」にFP概論を組み込んだために、社会保険、公的年金、企業年金等の出題数が限られてしまい、割愛される重要項目が続出した。
ライフプランニングの項目を残り8問でカバーすることには無理がある。

2.知識と実務の乖離が生じる

2000年頃までは金融機関のFP養成講座に講師として招かれると、研修担当者から「試験も大事なんですが、お客さまに密着した話、営業の場面ですぐに使える話、他行や他業態の話もしてください」というリクエストを受けることが多かった。
それはそれなりにやりがいがあり、話は脱線するもののウケもよかった。

それが、「資格試験の合格率を上げてください」となると「これを憶えてください」「この問題をもう一度チェックしてください」「この文章は正しいですが、こういう記述になると誤りですから気をつけてください」と言った受験テクニックの話になることが多い。また、出題される項目を外すわけにいかないから、時間配分もむずかしくなる。

近代セールス社が派遣していたある不動産鑑定士は、その地域の都市計画図を広げて講義し、その後、受講生を町に連れ出し「これが2項道路、これがセットバック」と現場で説明、それができない場合は写真を使っていた。
こういう講義は実務には役立つが、試験対策となると過去問題を解説したほうが効果が高い。

なお、このころ(02年頃まで、一部の金融機関では現在も)の金融機関のFP研修では、各科目とも最低2日間の講義時間を確保していた。

3.投資信託、債券、株式→債券、株式、投資信託

金融資産運用の出題は、カリキュラムでは投資信託、債券、株式の順だが、学習する順序としては債券、株式、投資信託である。

投資信託には公社債投資信託と株式投資信託があるのだから、先に債券、株式を理解しないと投資信託は理解しづらい。
とくに債券価格と利回りの関係は重要なのだが、きちんと理解している人は少ないのではないか。

以前は、電卓を使った債券の利回り計算をしつこいくらい繰り返していた。
これは債券価格と金利の関係を理屈で覚えるより、感覚で身に着けるためだ。

試験対策だけなら、「債券価格が上昇すれば利回りが低下し、債券価格が下落すれば利回りは上昇する」「金利上昇→債券価格下落、金利低下→債券価格上昇」と暗記しておけばよい。

金融資産運用の10問は、マーケットの理解、日銀の金融政策、預貯金、投資信託2問、債券2問、株式2問、外貨建て金融商品でいっぱいである。
セーフティネットやNISAなどの金融税制の分野から出題しようとすると、債券や株式の問題数と調整しなければならない。FPとしての必要項目がおろそかになってしまうのである。

4.実務家の講師と試験対策講師の違い

かつての金融機関のFP研修では、講師を専門家や実務家に依頼することが多かった。
社会保険や年金は社会保険労務士、相続法は弁護士、税理士、不動産は不動産鑑定士や宅建士、保険分野はアクチュアリーや保険会社の研修担当経験者などだ。
これら講師の講義内容は実務経験に基づくため厚みが違う。

筆者は仕事柄、これら専門講師の講義を後方で聞くことが多かったが、金融機関の窓口で年金相談を行っている社労士や、相続税対策を立案し申告も数多く手がけている税理士、不動産の鑑定評価に携わっている鑑定士の話は、知識の幅を大きく広げるものであった。
事実、現在の筆者にとっても大きな財産になっている。

これが02年以降の試験対策研修では、資格取得後間もないFPが講師を担当することが多くなった。
試験の合格率を上げるということでは、こちらのほうが効果が高いし、彼ら彼女たちの執筆したテキスト等もよくできている。

まずはFP資格を取得しそのうえで、真のFPになるべく、学べなかった知識を別研修でフォローすればよいのだが・・・。

もちろん最初は資格取得後間がなくとも、次第にベテラン講師の仲間入りをする。

全6科目を担当し、わかりやすい講義には定評があるが、実務経験は実際の相談業務を行っていないと身につかない。
なかには、相談業務を行いつつ試験対策講座を得意とするFPもいるが、人数的には少ないのが現状である。

最後に、申し添えたいのはFP3級、2級学科試験の問題数60問は少なすぎるということである。
各科目の出題数を15問とすると合計90、これにFP概論を10問加えれば100問である。

FPの必要知識をこれでカバーできるわけではないが、足りない部分を補うことにはつながると思うのだが、いかがさろう?

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