岡本英夫のFPウオッチャーだより 第17回 FPの相談業務を鍛えた団塊の世代 ~次は団塊ジュニアにどう対応するか 【2023年8月】

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

今回は第17回目です。

岡本英夫プロフィール

 

1.「2007年問題」を憶えていますか

2000年代のなかば、FPニーズを支えた社会現象のひとつに「2007年問題」がある。
1947(昭和22)年から49(昭和24)年までに生まれた「団塊の世代」が2007年以降に60歳に達し退職することによる社会的影響を「2007年問題」と呼んだ。

この問題はおよそ次の6点にまとめられていた。

  1. 大量退職による労働力の減少(高齢者雇用安定法で対応)
  2. 退職金負担による企業収益の悪化(乗り越えれば人件費総額は軽減)
  3. 家計貯蓄率の低下(過去の貯蓄を取り崩して暮らす層が増える)
  4. 企業の技能承継問題
  5. 退職者の大都市から近郊都市や故郷への回帰現象
  6. 医療、年金等社会保障関係費の増大

こうした中で金融界のターゲットとなったのが団塊世代の退職金である。
団塊の世代は当時約690万人、うち就業者は540万人で退職金の規模は総計で70兆円から80兆円と想定されていた。

公務員である47都道府県の職員だけでも2007年以降の3年間で13万人弱が退職し、退職金は3兆5000億円に達するといわれていた。
一般企業の退職金は当時、厚生年金基金や退職適格年金制度から支払われることが多かったが、そのほとんどが銀行振り込みであり、在職中の給与振込口座すなわち家計口座が中心となる。

当然のことながら退職金の振込があった金融機関は定期預金や投資信託、保険商品などに誘導しようとする。

退職金とともに金額が大きいのが、特別支給の老齢厚生年金・退職共済年金である。
これも金融機関の口座で受け取るもので、以後の高齢者取引の基盤となるため、受取口座の獲得に熱心な金融機関が多かった。
団塊の世代の特別支給の老齢厚生年金は60歳支給開始であり、金融機関やFPによる的確なアドバイスが求められていた。

2.当時の金融機関とFPの対応

団塊の世代の退職が始まるちょうど10年前、1997年は金融危機の年だった。

これを機に人材の流動化がはじまり、わが国の金融経済環境は大きく変化した。

デフレに陥ったこともあるが、金融、年金、社会保険などの制度改革やIT化により、「2007年問題」はより深刻度を増していた。

  • 銀行の預かり資産営業の落とし穴

とはいえ、06年3月・・・日銀は量的緩和政策を解除し、その後、政策金利を引き上げたことで市場に明るさが戻りつつあった。

07年に団塊世代の退職が始まると、金融機関は金利優遇の退職金専用定期預金、外貨建て個人年金保険、毎月分配型のグローバル・ソブリン・オープンに代表される投資信託などを受け皿商品として販売していった。

当初の運用成果は好調だったが、08年9月の100年に一度と言われるリーマンショックで状況は一転した。

FPの中には「退職金運用を銀行に相談してはいけない」「退職金による投資デビューは危険」という者も少なくなく、資産運用アドバイス専門のFPやIFAが活躍する素地が生まれた。

筆者は、銀行で誤った商品説明を受けた相談者の話を聞いて、07年暮れに元大和証券債券部の前川貢氏に「いま、債券投資が面白い!」(初版08年5月、近代セールス社)の執筆を提案した。
投資の物差しの一つである債券について勉強してほしいとの思いからだったが、2版止まりで「債券の本は売れない」というジンクスは崩せなかった。

  • 必要だった退職前後の年金・社会保険等アドバイス

退職金運用以外に団塊の世代が求めていたのが、退職前後の年金、社会保険、税金等のアドバイスである。
年金受取口座の獲得に熱心な金融機関では営業店等で年金相談会も開催していた。

また、取引先企業の退職予定者向けに退職前後の諸手続きや老後生活設計についての講師を派遣する金融機関も多かったが、優良企業に限られていた。

退職前後の手続きでは、年金の請求手続きのほか、雇用保険、健康保険、税金の手続きが必要になる。
雇用保険では退職する場合と、雇用を継続あるいは再就職する場合とではアドバイス内容が異なる。
健康保険も同様である。

税金も含めて制度改正を追いつつ退職前後のアドバイスができるFPのニーズが高まったのがこのころである。

このほか住宅ローンの残債がある場合の対応や生命保険契約の見直しなどのアドバイス、相続の問題もある。
住宅ローンも生命保険も2000年代に制度改革が行われ、住宅金融公庫は住宅金融支援機構となり、保険分野では老後の健康不安に対する医療・介護分野の保険が売れ筋となりつつあった。

これらはFPならではの分野である。

3,次なる顧客層の向けた新しいノウハウが必要

退職前後のアドバイスは現在も重要だが、早期退職者も増え、65歳、70歳以上であっても働く人が多くなっている。

年金改正や社会保険制度改革の背景には、この「団塊の世代」の存在があった。
その団塊の世代が全員75歳以上になるのが2025年で、これを2025年問題という。医療、介護のほか、高齢者の持つ資金や不動産の問題もある。

1951年生まれの筆者は、常に団塊世代のすぐ後を歩んできた。

FPがわが国に定着したのは1990年前後だが、団塊の世代は当時40歳代の働き盛りであった。
97年で50歳、07年で60歳、17年で70歳を迎え、その都度、わが国経済に大きな影響を与えてきた。

FPの次なるターゲットは現在50歳代、40歳代の段階ジュニア層だと考えられる。
就職氷河期、デフレ経済、減少する退職金、そして老後不安。団塊の世代への対応で得たノウハウでは対応が難しい世代である。

同年代の多いFP諸氏による新しいノウハウ、アドバイス対応の構築に期待したいところである。

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