マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。
今回は第24回目です。
岡本英夫⇒プロフィール
貯蓄奨励の昭和時代
筆者が社会に出た1970年代は投資など考えもしなかった。
金融資産作りは信用金庫で定期積金、給与天引きで財形、銀行で積立定期預金というのが定番で、勤めた会社が金融機関相手の出版社だったから、いずれの金融機関からも勧誘を受けた。
ボーナス時期には「マル優で定期預金を」との大攻勢を受けたが、マル優の300万円、郵便貯金の300万円、財形の500万円(当時)の枠が埋まる人などサラリーマンでは少数だった。
その後、中期国債ファンドが発売された1980年からマル優の対象として公社債投資信託がクローズアップされ、83年からの銀行国債窓販開始で少額公債非課税制度(特別マル優)もメニューに加わった。
マル優と特別マル優を組み合わせた国債定期口座も発売された。
そのほか一時所得・譲渡所得の特別控除額50万円、雑所得の申告不要額20万円を活用すれば一時払い養老保険、金投資口座、抵当証券なども非課税の恩恵を受けられた。
88年3月、マル優、特別マル優、郵便貯金、財形非課税制度が原則廃止、非課税で貯蓄できるのは65歳以上の高齢者、母子家庭、障害年金の受給者等と住宅・年金財形に限られることになった。
5年以内の一時払い養老保険、金投資口座、抵当証券などは金融類似商品として20%の源泉分離課税が適用され、個人資金は5年を超える一時払い養老保険や株式、ワンルームマンションなどの不動産投資に向かった。
「貯蓄から投資へ」前夜~ドル・コスト平均法も流れに乗れず
マル優廃止を翌年に控えた87年10月、生保各社から変額保険が発売された。
保険料を特別勘定で運用し保険金額および解約返戻金が運用実績に応じて変動するが、死亡・高度障害保険金は保障されている。
月払いで加入すれば「ドル・コスト平均法」の効果が得られるが、一時払いで加入すると運用は相場変動リスクにさらされる。
発売当社の運用実績は好調で加入者が増加したが、バブル崩壊により解約が相次ぐことになる。
証券貯蓄ではミリオンが87年に大和証券から発売され他の証券会社も追随した。
給与天引きで積み立てる株式投資信託で、インデックス型とボンドミックス型が基本。
社内預金や財形の後継商品として期待されたが、株式相場は90年以降下がり続け、ドル・コスト平均法の欠点をさらけ出してしまった。
なお、ミリオンは現在も運用を続けているが、信託報酬が1%台後半と高いこともあって新規契約の対象からははずれている。
証券界は、低迷する株式市場を支える意味合いもあって93年2月「株式累積投資制度(株式るいとう)」をスタートさせた。
自分で選んだ株式を1万円以上の金額で毎月買い続け、単元株に達すると通常の株主の権利が取得できる。
中長期的な株価の上昇に期待するというのがその趣旨で筆者も活用したが、株式の購入方法としては理にかなっていた。
同様の仕組みを持つものに金定額購入システム(純金積立)がある。
金融パニックで増えるタンス預金
バブル崩壊後の95年ごろから金融機関の不良債権問題が顕在化する。
信組・信金や第2地銀の破綻を経て、97年4月に日産生命、11月には三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券、徳陽シティ銀行が破綻する。
長期信用銀行や信託銀行の危機も噂され、ペイオフ解禁が予定されていたこともあって、信用不安のある金融機関から個人預金が引き出され、高格付けの銀行やタンス預金に向かい、家庭用金庫の販売が増加した。
貯蓄増強中央委員会から貯蓄広報中央委員会、そして金融広報中央委員会へ
日本銀行の金融広報中央委員会は1952年に「貯蓄増強中央委員会」として発足、数々の貯蓄奨励策を行っていたが、少額貯蓄非課税制度等が廃止された88年に「貯蓄広報中央委員会」に名称変更を行った。
そして、「貯蓄から投資へ」のスローガンが登場した2001年4月に現在の「金融広報中央委員会」に名称を改めている。
「貯蓄から投資へ」という日本政府の方針は2001年に小泉内閣が発足後最初にまとめた「骨太の方針」の中で、「個人投資家の市場参加が戦略的に重要。貯蓄優遇から投資優遇への金融の在り方の切り替え」と明記されたのが始まりである。
この方針に沿って証券優遇税制もスタートした。預貯金利子の税金は20%に据え置かれたが、株式売却益や株の配当金は10%に引き下げられたのである。
2001年は、中期国債ファンドなどの公社債投資信託が実質元本保証の予想分配型から実績分配型に移行し、ETF や J-REIT が発売された年である。また企業型確定拠出年金制度がはじまった年でもある。
9月11日の米同時多発テロ後の11月にはMMFが元本割れを起こし、その後、MMFの運用の見直しが行われた。
以上のようなさまざまな流れの中で「貯蓄から投資へ」の時代に突入したのである。
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