【2016年 第1回】 FRBの金融政策の最新事情(1)⁓日米欧・金融政策の最新事情と展望⁓
小松 英二(コマツ エイジ)⇒プロフィール
米連邦公開市場委員会(FOMC)は、2015年12月16日に政策金利の誘導目標の引き上げを決めました。
2008年末から続くゼロ金利政策が解除され、世界のマネーの流れが大きく変わろうとしています。
今回は利上げ判断のポイントを整理しながら、新興国経済への影響などを見ていきましょう。
米国利上げ後に世界が抱える2つのリスク
米連邦公開市場委員会(FOMC)は、2015年12月16日に政策金利の誘導目標を年0~0.25%から0.25~0.50%への引き上げを決めました。
利上げは9年半ぶりで、2008年末から続くゼロ金利政策が解除されます。
金融危機に対処した前例のない大規模金融緩和は幕を下ろし、世界のマネーの流れが大きく変わろうとしています。
今回は利上げ判断のポイントと今後のリスクを見ていきましょう。
FOMCが利上げの最終判断で確認したこと
世界が注目した利上げの条件は3点。その条件は、
①雇用を始めとする各種経済指標が、利上げに耐えうる良好な状況であること
②利上げにより新興国経済などに深刻な悪影響が及ばないこと
③利上げにより、米国のインフレ(物価上昇)率の低下懸念がないこと
です。
そのうち①の景気や雇用は基本的に問題ないように思われますが、懸念材料は後の2つ。
まず、米国利上げで新興国通貨が減価(通貨安)しやすくなり、新興国経済へのダメージが心配されること。
新興国の景気減速は、日本を含む先進国の輸出にも大きく影響します。
また、利上げにより原油安が進むと、世界的にインフレ率を押下げ、日本やユーロ圏の脱デフレへの取り組みを妨げる心配があります。
以下では、新興国経済への影響と、原油安の世界経済への影響を見ていきましょう。
米国の金融政策に振り回される新興国経済
類を見ない大規模金融緩和による余剰マネーは、成長期待の高い新興国(ブラジル、インド、インドネシアなど)に流れ込み、株高・通貨高をもたらしました。
しかしながら米国の金融緩和縮小(2014年1月~10月)のタイミングで逆流を始めたマネーによりドル高・新興国通貨安が進み、今回の利上げはこうした流れを加速させる可能性があります。
新興国通貨安はインフレにつながりやすく、実際にブラジル、インドネシアなどは高いインフレに悩まされています。
新興国の国民生活が圧迫されると、先進国の工業製品を買う消費パワーも減退し、世界全体に悪影響を及ぼします。
またドル高により、新興国企業が抱える「巨額のドル建て債務」の負担増が心配されます。
先進国から新興国に流れた緩和マネーは、融資などのかたちで現地企業にドル建て債務として積み上がりました。
ドル高・新興国通貨安が進みますと、新興国企業のドル建て債務の返済負担(新興国通貨換算で返済額が増加)を重くし、新興国企業の業績悪化や信用力低下につながります。
ドル建て債務はざっくり3兆ドル(日本円で360兆円)。注意すべき水準です。
行き過ぎた原油安は経済・金融をかく乱する
利上げによるドル高は、原油価格を抑える方向に働きます。
原油は国際市場においてドル建てで取引されることから、円やユーロなど他通貨圏の購入者からすると原油購入が割高となり需要を減らすといった事情があります。
適度な原油安は、日本などの消費国経済にプラスとなり、世界経済には好材料となる可能性もありますが、行き過ぎた原油安となりますと、様々な副作用が心配されます。
例えば、不採算のシェール・オイル企業を廃業に追い込み、連鎖的な倒産が米国経済・金融に大きなダメージを与える可能性です。
また、中東産油国などの原油輸出収入が減り、これら諸国の景気後退につながる心配があります。
さらに、日銀や欧州中央銀行(ECB)で進めている脱デフレを目指す金融緩和も、原油安が行き過ぎますとマイナスに作用する懸念があります。
世界経済は米国利上げで大きな転換点を迎えます。
グローバルに繋がるなかで不測の事態も起こりうるでしょう。
投資家にとっては、リスクを見る視点を今まで以上に磨く必要があるように思われます。
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