【2012年 第7回】 外資系生保の本国回帰と、日本国内での集約化
ケース別コラム – 最新の「保険」商品情報!
久保 逸郎 (クボ イツロウ)⇒ プロフィール
2012年9月8日の日本経済新聞朝刊の一面で「オランダ金融大手ING 生保、日本から撤退」と報じられました。内容的にはリーマンショック以降の金融危機の中で進めてきた世界的なリストラの一環であり、欧州の銀行業務に経営資源を集中するために、香港の実業家グループに日本国内の生命保険事業を売却するというものです。
2012年9月8日の日本経済新聞朝刊の一面で「オランダ金融大手ING 生保、日本から撤退」と報じられました。内容的にはリーマンショック以降の金融危機の中で進めてきた世界的なリストラの一環であり、欧州の銀行業務に経営資源を集中するために、香港の実業家グループに日本国内の生命保険事業を売却するというものです。
この報道を受けて、アイエヌジー生命は親会社のINGグループは2009年10月に金融危機後の事業再編の中で保険・資産運用部門を銀行部門から分離・独立させることをすでに発表しており、その流れで2013年末までに米国・欧州・アジアでの全ての生命保険事業をINGグループから分離・独立させることを目指していると発表しました。また、日本を含むアジアの生命保険事業については、まだ決定された事実がないことも同時に発表されています。
■アイエヌジー生命の日本事業の概要
日本経済新聞の報道によると、アイエヌジー生命の日本国内での生命保険事業では契約件数が約77万件、総資産約2億8000億の規模がある。平成23年度の新契約年換算保険料は前年比15.9%増の696億円、基礎利益78億円、当期純利益は67億円あり、平成24年6月末時点のソルベンシー・マージン比率が892.5%と十分な支払余力も確保されています。スタンダード&プアーズ社でもアウトルックで「方向性不確定」という判断になっているものの、保険財務力格付けではBBB+(2012年8月31日現在)の評価を得ており、当面不安な様子は見当たりません。
リーマンショックをきっかけに生じた金融危機の影響で、主力商品である変額個人年金保険の新規契約を一時休止したことはあったものの、その後商品のリスクコントロール手法を見直すなどして、2010年8月から提携金融機関を通じた販売を再開しています。
■変額個人年金を主力としている保険会社が苦しい
しかし、リーマンショック以降市場での運用環境が厳しい中では、変額個人年金保険の元本を保証する仕組みが、生命保険会社の収益の圧迫要因になっていることは間違いありません。日本国内においては元本保証タイプの商品でないと販売が伸びないという傾向が顕著であるため、米ハートフォード生命のように変額個人年金を主力としている生命保険会社の撤退・新規契約の販売停止の流れが続いています。
2010年にPCA生命(英・プルーデンシャル)・2011年に独・アリアンツが日本での新規契約を販売停止にしましたが、欧州の債務危機が長期化する見通しの中では、とくに欧州系生命保険会社で今後同じような動きが起こってくる可能性は否定できないと思います。
その一方で、アメリカンファミリー生命やプルデンシャル生命・メットライフアリコのように、日本国内で長年に渡って保障性のある商品を中心に販売してきた生命保険会社は、順調に拡大して収益を伸ばしています。
このように外資系と言われる保険会社の中でも、勝ち組と負け組がはっきりと分かれてきており、今後も吸収合併などを通じて業界再編の動きが広がってくるものと予想されます。
■冷静な対応を心掛けること
それでは保険契約者はどのように対応を行えばいいのでしょうか。結論から言うと、外資系生保の日本事業撤退などが発表されたとしても、慌てて何かの行動をしようと考えないことだと思います。
日本国内で生命保険事業を行うすべての保険会社は生命保険契約者保護機構に加入することが義務付けられていて、万一保険会社が経営破綻した場合でも、破綻時点の責任準備金等の90%まで補償されることになっています。これには国内・外資の区別はありません。
また、保険会社が破綻した場合や、外資系生命保険会社が日本から撤退するようなことがあっても勝手に会社を解散して保険契約を終了するようなことはできません。必ず買収して後を引き継ぐ保険会社に包括的に保険契約を移すか、または仮に買収する後を引き継ぐ保険会社が見つからない場合でも、生命保険契約者保護機構が保険契約を引き受ける保険会社を設立して移転することになっています。
リーマンショック後のタイミングでは、AIGグループの経営悪化がメディア等で盛んに報じられました。同グループ傘下にあった保険会社には多数の問い合わせがあり、また、不安からインターネット上では事実ではないことが書かれているのを目にしました。一部では既契約の解約等をされた方までいたようです。
しかし、その後は親会社変更などが起きただけで既契約への影響はなかったように、すでに加入している保険契約の保障内容等には影響がありませんでした。日本国内の事業が経営破綻するという事態にでもならない限り、保険契約の中身へのマイナスの影響は出ないことは知っておいて、冷静な対応をするように心掛けましょう。
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