マイアドバイザー® 菅野美和子 (スガノ ミワコ)さん による連載コラム(不定期)です。
『世帯分離』のあれこれ 3回目のテーマは「世帯分離で遺族年金はどうなる?」です。
ひとつの家に住んでいても、家族のまとまりを別々の世帯に分けることを世帯分離といいます。経済的なメリットを考えて世帯分離を検討する人が多いでしょう。今回は、世帯分離と遺族年金について考えていきます。
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夫婦間の世帯分離は可能?
そもそも、夫婦間の世帯分離はできるものなのでしょうか。
民法に夫婦について定めた条文(第752条)があります。「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」とあり、これだけ読むと、夫婦の同居に強制力があるように思えます。
しかし、民法に罰則規定はありません。夫婦であるからには、協力して家庭を築いていきましょうという、夫婦のあり方を定めています。あたりまえのことですね。
親子間の世帯分離については簡単に認められますが、夫婦間の世帯分離については、民法の定めもあり、親子間よりもハードルが高いと考えたほうがいいでしょう。世帯分離が必要になれば、市区役所・町村役場などの窓口で手続きをします。なぜ、世帯分離なのか、事情を聞かれることになりますので、準備しておきます。
単身赴任でやむを得ず、夫婦が別居することもあります。もちろん、一時的な単身赴任であれば、住民票を移動させないという選択もあります。
また、介護が必要になり、夫婦のいずれか一方が施設に入居する場合、夫婦でありながら、別世帯となることもあります。
離婚を前提にした別居やⅮⅤ被害による世帯分離もありますが、これらは特別な事情もありますので、ここでは詳細には取り上げません。
やむを得ない理由に該当し、別々に生計しているのであれば、夫婦間で世帯を分けられなというわけではありません。しかし、夫婦とは同居し、互いに協力するものだと、心の中に留めておきましょう。
遺族年金の条件
いつ、何が起きるか、わかりません。別世帯となっている間に、夫婦のいずれかが死亡するということもあります。そんなときは、悲しみを乗り越えて、その後の生活の手立てを考えなくてはなりません。
たとえば、会社員(厚生年金加入中)の夫が死亡すると、妻は遺族厚生年金を受給できる遺族となります。
ただし、条件があります。それは妻が夫に「生計を維持されていること」です。
「生計を同じくしていること」と「収入要件(年収850万円未満)を満たしていること」のふたつの条件を満たすと、「生計を維持されている」と認められます。
「生計を同じくしている」とは、簡単に言えば同居しているということです。
何らかの事情で別居している場合は、「別れていて住んでいるけれど一つの財布で暮らしていること」を金銭の仕送りや扶養関係で証明します。この証明が取れないと遺族年金を受給できないことがあると考えてください。
手続きを複雑にさせないために
遺族年金の手続きは、同居の場合は簡単です。
住民票で同居を証明できます。住民票が同じであれば、生計同一とみなされます。
ただし、ほんとにいっしょに暮らしていないとだめですので、ご注意ください。
夫婦仲が良いとか悪いとかは関係なく、夫婦仲が悪く、家庭内別居状態であったとしても、住民票で同居の事実がわかります。
世帯分離しているが同じ住所であるという場合は、同居の事実を確認できますが、世帯分離し、別居している場合は、遺族年金の受給権があることを証明するのが難しくなります。
単身赴任であれば会社に証明をもらう、施設に入居していたのであれば、施設の人に証明してもらうなど、ひと手間かかります。
夫婦それぞれに収入があり、経済的な支援もないとなおさらです。
戸籍上の妻であっても、遺族年金をもらえないこともあるのです。
事実婚の夫婦が別世帯となっていると、さらに複雑になり、自分で遺族年金の手続が手に負えないこともあります。
事実婚かつ別世帯でも必要な書類をそろえ条件を満たせば、年金は受け取れますが、簡単ではありません。
このようなことからも、別居も含めて、夫婦の世帯分離は慎重に。
経済的メリットがあると言って世帯分離をしたことにより、その後のもっと大きな経済的メリットを失うかもしれません。
夫婦の世帯分離は、遺族年金受給という点からはおすすめできません。
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