平野厚雄です。 私は社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(CFP®)として、中小企業の人事労務問題を中心に活動しています。
仕事柄・・・中小企業の経営者のみなさんとお話しする機会があります。
そこで、これから1年掛けて、『経営者を悩ませるよくある人事労務問題』を中心にお伝ええしておきます。
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目次
通勤手当とは
一般的に通勤手当とは、自宅から会社までの通勤にかかる費用について会社から支給される手当のことです。
その種類は、現金給付と定期券等を支給する現物給付の2種類があります。
通勤手当と類似する言葉に交通費がありますが、法律上、明確な分類があるわけではありません。
一般的に交通費とは、社員が営業や出張等のため電車、バス、飛行機、タクシーなどの交通機関を利用した際に発生する移動費について、社員がまず負担し(立て替えて)、後日、会社に申請して清算されるものとなります。
なお、通勤手当と交通費は、社会保険および所得税の取り扱いに違いがあるので注意が必要です。
通勤手当と交通費の社会保険・所得税の取り扱いの違い
通勤手当 | 交通費 | |
社会保険の対象 | 〇 | × |
所得税の課税対象 | ×(一定額まで非課税) | × |
会社に通勤手当を支払う義務はない
厚生労働省「令和2年就労条件総合調査」(2020年10月30日公表)によると、通勤手当は、企業92.3%が支給しているとのことです。
このデータが示す通り、会社では当たり前のように通勤手当が支給されています。
しかし、労働基準法では、会社は社員に通勤手当を払わなければならないという決まりはありません。
したがって、社員の通勤にかかる費用は社員の自己負担でも全く問題ありません。
つまり通勤手当は、会社が恩恵的に支給する意味もあるのです。
「通勤手当は支給しなくても問題ない」ということを知らない経営者もたくさんいらっしゃいます(会社が通勤手当を支給する場合は、通常、就業規則や賃金規程に通勤手当の計算の仕方や支給方法を定めることになります)。
通勤手当にまつわるトラブル
しかし、この通勤手当においては様々な問題が起きます。
その1つが社員による通勤手当の詐取です。
通勤手当の詐取は、大きくわけると3つのパターンになります。
通勤手当の詐取 主な3つのパターン
- 会社に届け出た通勤経路以外の方法で通勤し定期代を詐取する
- 実際よりも遠方から通勤しているように申告し、定期代の差額を詐取する
- 電車代やバスで通勤すると申告しているが、実際は自転車で通勤しその差額を詐取する
事例①
電車で約30分の通勤で1ケ月の定期代20,000円を支給していた社員がいました。
その社員は、その通勤手当20,000円を懐にいれたくて実際は往復2時間半かけて自転車で通勤していました。
その自転車通勤していた期間は3年半で、ある日、この社員が通勤途中に車との接触事故を起こし自転車通勤していた事実が発覚しました(事故が起きていなければ、判明するのがもっと先になっていたことが確実)。
詐取した総額は、840,000円(月20,000円×42月)となります。
この事例は、【通勤手当の詐取主な3つのパターン】でいうと①に該当します。
起きたしまったことは仕方がないのですが、会社として重要なことは、まず、事前に通勤手当の詐取が起こらない仕組をつくるということになります。
会社が詐取を予防するためにできること
通勤手当の詐取を予防するために会社ができることには、5つのポイントがありますのでご紹介します。
ぜひご参考にしてください。
- 就業規則(賃金規程)にて通勤手当の支給、懲戒処分、返還に関するルールを設ける
- 通勤手当の詐取は罪になる可能性があることを教育する
- 自宅から会社までの通勤経路及び移動費を書面にて提出してもらう
- 会社はその通勤経路及び移動費が妥当かどうか確認する
- 定期的に定期券のコピーや乗車履歴等の書面の提出を義務付ける
まず重要なことはルールを整備しておくということです(①)。
ルールが事前にあるから指導や統制ができ、事後対応も毅然と行うことができます。
そして、教育です(②)。
通勤手当を詐取した場合、当然にその詐取した金額は返金しないとダメですし、場合によっては、詐欺罪(刑法246条1項)が成立する可能性もあります。
そして、通勤経路は書面(もしくはWEBツール)で、きちんと記録として残るもので申請させて(③)、会社はそれをきちんと確認します(④)。
そして、最後は支給している通勤手当で申請書通りの定期券を購入しているかを定期的に確認します(⑤)。
事前にこの5つの仕組みを整えておくことがとても重要になります。
会社として絶対にやめてほしいこと
会社として絶対にやめてほしいことは、通勤手当を詐取したことを理由として、いきなり懲戒解雇をすることです。
懲戒解雇とは、会社が社員との労働契約を一方的に解約する処分をすことをいい、懲戒処分の中でも、もっとも重い制裁となります。
というのも、「いきなり懲戒解雇は重過ぎる」ということで不当解雇と認定されている裁判例もあるからです。
したがって重要なことは、いきなり解雇はせずにまずは就業規則の内容に沿った懲戒処分を行うことが重要になります。
通勤手当の最近のトレンド
コロナ以降、リモートワークが進み「働く場所を選ばない働き方」が増えてきています。
このような現状の中で、決まった場所のオフィスに毎日通勤することを前提にした通勤手当を廃止する会社が増えてきております。
その代わり、前述の交通費のように、実際にかかった費用を清算するという制度や、在宅勤務手当のようなリモートワークに対応した手当を新設するというケースも増えてきております。
このような時代の変化に合わせて現状の給与形態を見直す、という柔軟性も大切になります。
以上、次回に続く!
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