平野厚雄 の 実務家FPとして知っておきたい 中小企業の経営者を悩ませるよくある人事労務問題 第7回 人事評価制度の運用がうまくいかない3つの理由

平野厚雄です。 私は社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(CFP®)として、中小企業の人事労務問題を中心に活動しています。

仕事柄・・・中小企業の経営者のみなさんとお話しする機会があります。

そこで、これから1年掛けて、『経営者を悩ませるよくある人事労務問題』を中心にお伝えしていきます。

平野厚雄プロフィール

これまで社会保険労務士として多くの会社の人事評価制度をみさせていただきましたが、運用がうまくいってない会社には3つの共通した理由があります。今回はその3つの理由と対策についてです。

■そもそも人事評価制度とは?

人事評価制度とは、主に3つのポイントがあります。

①等級制度
等級制度は、社員の役職や職務内容に応じた階層を設定し、組織内での役割と責任を明確にする制度です。各等級には求められるスキルや業務内容が定義されており、社員は自身のキャリアパスを把握しやすくなります。これにより、昇進や異動の基準が明確となり、公正な人事管理が可能となります。また、社員の成長意欲を高め、組織全体の生産性向上にも寄与します。

②賃金制度
賃金制度は、社員の給与や賞与を決定するための基準やルールを定めた制度です。基本給、各種手当、賞与などから構成され、社員の職務等級や評価結果に基づいて設定されます。適正な賃金配分を行うことで、社員のモチベーションを高め、優秀な人材の確保と定着を図ります。また、業績連動型の報酬制度を取り入れることで、企業の目標達成と社員のパフォーマンス向上を促進します。

③評価制度
評価制度は、社員の業績や能力、行動を定期的に評価し、その結果を昇進や報酬に反映させる仕組みです。評価基準は明確かつ公平であることが求められ、業績評価、能力評価、行動評価など多面的に行われます。フィードバックを通じて社員の強みや改善点を明示し、個々の成長を支援します。これにより、組織全体の目標達成に向けた一体感を醸成し、労働意欲と生産性の向上を図ります。

これら3つが連動して人事評価制度は運用されます。

■人事評価制度がうまくいかない3つの理由

 この人事評価制度ですが、多くの会社で制度はあるが運用できていない、という状況になっています。そして、多くの会社で現実として、社員が、会社に人事評価制度が無いことや、自分に対する評価の仕方に不満を抱き退職していくということが起きています。

人事評価制度の運用がうまくいかない理由は主に3つです。

  • 目的が不明確
  • 社員のスキル不足
  • 力の入れどころが違う

 人事評価制度がうまくいかない最も大きな理由が、「①目的が不明確」ということです。「何のために人事評価制度を導入したのか?」という目的について、社員が理解していない、または不明確であるということです。人事評価制度は、給与やポジションを決める手段でありツールでしかありません。人事評価制度は会社からの理想の人材像を示すメッセージであり、その目的は「社員の成長」です。

「②社員のスキル不足」とは、社員がそもそも人事評価制度に対しての正確な理解がなかったり、部下との面談スキルを学んでいないということです。つまり、制度だけ導入されたけど、具体的に何をしたらいいかわからない状態になってしまっていることです。大事なことは仕組みの導入と社員教育の両輪になります。

「③力の入れどころが違う」とは、人事評価制度は働く社員にとって緊急性がないので後回しになってしまいます、したがって、年度の最初は適当にはじめ、期間中は意識せずすごし、最後に慌ててやる、というのがパターン(図1)です。

※図1

一方でうまくいく力のいれどころは下記となります。

※図2

 期初にしっかりと目標を設定し、期中は、部下との定期的な1on1面談を実施し、人事評価制度の目的や成長を意識してもらう、そして、期末は、評価エラーに注意しながらこれまでのかかわりを通して評価をする、という流れになります(図2)。その中でも、人事評価制度の運用で重要なことは期初の目標設置と期中の1on1面談です。この2つで運用の8割が決まります(つまり、会社としてはこの3つのフェーズ(期初・期中・期末)にあわせた社員教育を行なっていることが重要になります)。

■人口減少社会においての人事評価制度の必要性

人口減少社会では、労働力が減少し、優秀な人材の確保が一層難しくなります。人事評価制度は、社員の能力や業績を正確に把握し、適材適所に配置するために不可欠です。これにより、組織全体の効率を最大化し、生産性を向上させることができます。また、社員の潜在能力を引き出し、最大限に活用することで、少ない人員でも高い成果を上げることが可能になります。

また、評価制度は一度作成して終わりではなく、定期的に見直しを行い、改善を続けることが重要です。社会情勢の変化や社員からのフィードバックを取り入れることで、より実効性の高い制度に進化させることができます。

人事評価制度も会社とともに進化成長していくものであるという認識がとても重要になります。

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