【2016年 第4回 海外に投資するための金融商品②「海外REIT(その2)」】海外投資のイロハを学ぶ
永柄 正智(ナガエ マサトモ)
前回は、REITの仕組みやメリットなどについてご説明しました。
今回は、世界最大のREIT市場であるアメリカの現状と、アジアの有望市場に位置付けられるシンガポールREITについてお話します。
世界最大のREIT市場「アメリカ」
REITは1960年にアメリカで誕生し、すでに50年以上の歴史を持っています。
世界最大のREIT市場であるアメリカの市場規模は約80兆円を超えており、世界のREIT市場全体の約60%を占めています。
(現在では世界第2位の規模に成長した日本のREIT市場は2000年に誕生し、その市場規模は約12兆円です。)
アメリカのREIT市場がここまで大きく育った理由として、広大な国土と人口の多さが関係していますが、アメリカ人の不動産に対する考え方も成長の背景にあるように感じます。
アメリカでは不動産取引全体の約8割を中古物件が占めています。
そのため、物件の状態や管理が良ければ、中古物件であっても安定した賃貸収入を得ることが可能です。
また、多少古い物件であっても、改修やリニューアルなどを通じて物件の価値や魅力を上げることができれば、新築よりも高値で売却したり、賃貸したりということも十分可能です。
このようにアメリカでは中古物件でも管理状況によって不動産価値を高く評価する考え方をします。
そもそもREITの目的は、保有する不動産の維持管理や改修などを通じて、その物件の価値や魅力を向上させ、より高い賃貸収入や売却益を確保することですから、REITの仕組み自体がアメリカの不動産市場にマッチしているようです。
アメリカの不動産の状況
世界の株式市場は昨年後半から今年の2月頃にかけて、中国経済の減速や原油安などによって軟調な相場展開が続きました。
しかし、歴史的な低金利が先進国を中心として続く中で、相対的に利回りの高いREITの人気は高く、今年2月以降のアメリカREIT指数は堅調に推移しています。
アメリカでは過去40年間に渡り、年平均で約4%ずつ不動産価格が上昇しており、昨年は過去最高となる約700億ドル(約7兆5千億円)もの資金がアメリカの不動産市場に流入しました。
世界の投資家がアメリカの不動産市場に注目する理由は、堅調な経済のもとで商業用不動産の賃料が上場基調であることなども挙げられますが、根本的な理由としては、「アメリカ」という国自体に魅力があるからでしょう。
アメリカは世界最大の経済規模と広大な国土、豊富な資源を持ち、さらには先進国の中で唯一人口が増加している国でもあります。
投資の尺度で考えた場合にも、新たな発明や技術革新が多く生まれ、また今後も安定した経済成長が見込めるアメリカの不動産の人気はさらに高まり、引き続き世界中の投資家からの関心を引き寄せるものとなるでしょう。
アジアの有望なREIT市場「シンガポール」
次に、日本以外のアジアのREIT市場の状況を見てみましょう。
近年の成長著しいASEAN の国々の中でも、特に活発な不動産投資によって大きく成長し、発展した国のひとつがシンガポールです。
シンガポールは日本の淡路島とほぼ同じぐらいの面積しかなく、人口も日本の20分の1ほどの小さな国ですが、シンガポールREIT(以下、S-REIT)の市場規模は約3兆円と日本のREIT市場の4分の1ほどの規模を誇ります。
S-REITの特徴としては、シンガポール国内の不動産だけではなく、中国やインドネシア、インドなど、他のアジアの国々へも積極的に投資を行っていることです。
S-REIT全体で、シンガポール以外の国への投資割合は約3割を占めており、S-REITを通じて、アジア各国の不動産へも間接的に投資を行うことが可能となっています。
S-REITのもう一つの特徴は、商業施設やホテル、サービスアパート(サービス付き高級賃貸マンション)に対する投資割合が高いことです。
日本のREIT市場では、オフィスと住宅への投資割合が全体の6割以上を占めていますが、S-REITの投資先は、商業施設やビジネスパーク、病院など対象とする不動産の種類が多彩で、なかでも世界中からシンガポールに集まる外国人駐在員が多く利用する「サービスアパートメント(サービス付高級賃貸マンション)」と呼ばれる物件への投資が多いのがS-REITの特徴となっています。
世界有数の貿易港を持ち、金融の中心地でもあるシンガポールでは、もともと不動産の証券化が発達しやすい環境にあり、そのことがシンガポールのREIT市場をここまで大きく成長させたのでしょう。
シンガポールREITの今後の可能性
S-REIT全体の平均利回りは約5%と他国のREIT市場と比較してもとても魅力がありますが、日本ではあまり知られていないのが現状です。
一方、2012年に6%程度の利回りがあった日本のREIT市場は、現時点では利回りが3%台に低下し、一時の魅力は薄れてきています。
他国のREITに比べると相対的に魅力が高まっているS-REITですが、最近では日本でも、主にシンガポールと香港のREITを組み込んだ投資信託が多く販売され、購入する投資家も徐々に増えてきているようです。
S-REITの魅力は、シンガポールの不動産だけではなく、中国やインド、ASEAN地域など、アジア全域への不動産に幅広く投資ができることです。
長期的な視点で見れば、アジアの不動産市場は今後も成長する余地があると考えられますので、投資信託などを通じて投資を検討してみるのもよいかもしれません。
不動産投資はREITから
海外の不動産に直接投資をすることは、とてもハードルの高い投資ですのでおすすめはしませんが、REITを通じて投資するのであればそれほど難しいことではないでしょう。
特にREITは、複数の不動産を証券化している商品であるため、リスクを分散することが可能ですし、REITが保有する物件の内容や財務状況等もしっかりと情報開示されていますので、海外投資を検討している投資家にとっては比較的安心して投資ができる金融商品だといえます。
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