【2013年 第5回 問題のある金融商品の見極め方 】投資に必要な経済の知識
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
世の中にはいろいろと問題のある金融商品が出回っています。MRIインターナショナルの投資商品が問題になっています。
今回はその商品を例に問題点を挙げることにより、投資家がチェックすべき点を洗い出してみたいと思います。
MRIインターナショナルという会社
ここが日本の投資家向けに投資商品を販売していましたが、その投資資金の大半が毀損されていたという事で問題となっています。詳細はまだ不明のところが多いですが、これから徐々に明らかになっていくことでしょう。
今回はその商品の仕組みを見ながら、どこに問題があったのか、考えてみましょう。
MRIインターナショナルの販売していた投資商品の概要は次のとおりです。
①投資対象
アメリカの医療機関の持っている保険会社への診療報酬請求権の証券化商品
②収益率とリスク
日本円建6~8.5%、リスクは非常に低い。
イメージとしては次の図になります。
(1)投資先はアメリカの病院が持っている保険会社への診療報酬請求権を証券化した商品となっています。
日本でも病院は健康保険組合に診療報酬請求権を持っていますが、アメリカの場合は少し事情が違います。アメリカの診療報酬請求権の債務者は健康保険組合ではなく、主に医療保険を提供している保険会社です。しかも保険会社により書類が違っていたり、かなり煩雑な事務作業となります。かつ、実際に保険会社から支払われる金額は請求金額よりかなり低くなっているようです。
MRIインターナショナルという会社はもともと医療関係のコンサルタントを行っていたようで、そうであれば、医療事務にもある程度精通していたと考えられ、請求権のリスクとリターンも有る程度把握できる能力があったと想像できます。であれば、それほどリスクを増やさずに収益率を高めることは決して不可能ではなかったでしょう。
ただ5年前の5月1日のアメリカ国債利回りは1年物で2.0%、10年物でも3.8%(米国財務省)、6%を超える利回りは相当のリスクを取らない限り無理だったでしょう。追い打ちをかけるようにリーマン・ショックが勃発し金利も急低下する中で、運用環境が急速に悪化したと考えられます。
(2)更なる問題点は、元本と収益を円建てで投資家に約束していたという事です。
外貨建て商品の元本と収益を円建てで固定化するにはオプション、スワップ、先物などのデリバティブを用います。そのためにはコストが生じます。長期的に為替リスクを回避しようとすれば、収益は結局通常の円建て商品と大差が無くなります。例えば2008年5月1日の10年物日本国債利回りは1.575%。どんなに頑張ったとしても非常に少ないリスクで2%を超えて運用することは困難であったでしょう。
もし、デリバティブによるヘッジをかけていなければ、コストは不要ですが、為替変動のリスクはMRIが引き受けなければなりません。円安になればMRI側の収益は増えますが、円高になれば、これは単独で引き受け出来るリスクではありません。たちどころに会社は破綻、まさに生死をかける大博打です。
ここで、運用環境の変化の為、分配金を引き下げると同時に、元本も大幅に毀損した旨を投資家に通知しておけば、問題は小さかったでしょうが、投資家に通知せぬまま、無理に無理を重ねて今回の結末になったと思われます。新たな投資資金を既存の投資家の分配金に回している、自転車操業状態であれば違法性も高くなるでしょう。
まとめとして
ローリスクでハイリターンは絶対に有り得ません。ファイナンス理論の点から見ても不可能です。目安として、運用通貨での国債利回り、円での運用であれば日本国債、ドルでの運用であればアメリカ国債の利回りが安全に運用する場合の収益率の上限だと思ってください。もっとも国債でも過去のギリシャのように債務不履行の確率が高い国債は基準にはなりません。
今回のMRIインターナショナル、投資対象はアメリカの医療報酬請求権ですが、日本ではその情報がなかなか入手できません。アメリカの医療制度に詳しい方であれば良いのでしょうが、そうでない限りそのリスクの内容を把握することは困難です。
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