鉄道の父 井上勝 【2016年 第8回】

【2016年 第8回 鉄道の父 井上勝】風は西から・・・日本の産業を創った長州の偉人たち

上津原 章(ウエツハラ アキラ)⇒ プロフィール

こんにちは。山口県のファイナンシャルプランナー、上津原と申します。
今回は、鉄道局長、鉄道庁長官を歴任し、日本の鉄道の父といわれる井上勝氏を取り上げたいと思います。
私自身鉄道が好きで、小学校の頃山口県立博物館で開催された「鉄道いまむかし」展で井上勝氏のことを知りました。
私が住んでいる場所を走っている山陽本線は、当初は山陽鉄道という民間会社の路線でした。
鉄道の許認可を与える際に、「下関まで開通させること」を決めたのも井上勝氏です。先人の熱い思いを感じます。

 

生い立ち ~長州ファイブの一員として~

井上勝氏は、1843年、今の萩市に長州藩士井上勝行の三男として生まれました。
母を幼くして亡くし、野村家に養子に出され野村弥吉と名乗ります。
1854年、実父とともに相模に派遣されたところ伊藤博文と出会い、1860年、江戸で砲術研究をしていたところ、大村益次郎と出会います。
村田蔵六のつてで函館の武田斐三郎から鉱山学などを、函館のイギリス領事官から英語を学んでいます。

伊藤博文氏などの4人とともに、1863年にイギリスへ密航し、ロンドン大学で鉱山技術や鉄道技術等を学びます。
学業のかたわら、機関士の見習いや、シャベルを手に鉱夫の手伝いもしていたといいます。
ロンドン大学を1868年(明治元年)に卒業し、帰国の途に就きます。

 

鉄道頭(てつどうのかみ)に就任

帰国後、まずは長州藩で鉱山管理にかかわっていましたが、新政府によって抜てきされ工部省の役人になります。
やがて、お雇い外国人の鉄道技官エドモント・モレル氏の通訳を引き受けることになります。
伊藤博文が当時鉄道計画に没頭していたこともあり、鉄道技術もわかり英語もできる彼に白羽の矢が当たりました。

1871年8月に鉄道頭に就任します。
すでに新橋~横浜間の鉄道工事が進んでいましたが、彼の就任によって、枕木にカンナをかける等の無駄な工事がなくなり、お雇い外国人とも対等な立場で交渉ができるようになったといいます。
就任して1年2か月後、新橋~横浜間が開通します。

 

日本人の手による鉄道建設を志す

彼の上司である山尾庸三氏との対立により、1873年に一度鉄道頭を退任します。
伊藤博文氏の説得により半年後に再就任し、まずは神戸~京都間等の関西での鉄道工事や、日本人技術者の人材育成に力を尽くします。
1880年には京都府と滋賀県との境にある逢坂山トンネルを、日本人技術者だけの力で開通させます。

その後、全国に民間鉄道会社が増えてくると、許認可を出す立場のかたわら、重要な路線については技術責任者等のかたちで鉄道工事を支援していきました。

鉄道頭は、鉄道庁長官と名前を変えながら1893年3月まで務めます。

 

鉄道車両も日本人の手で

鉄道網が広がると、今度は機関車が少ないために乗客や貨物を運べないことが問題になりました。
そこで、実業家の力を借り、国産機関車をつくることを目的に汽車製造合資会社を1899年に設立します。
1901年に初めて蒸気機関車を完成させました。
機関車だけではなく、地下鉄車両や新幹線車両等も作り続け、1972年に川崎重工業と合併して今日に至ります。

 

結びのことば 「まさに鉄道を以て死すべきのみ」

井上勝氏は1910年8月に、視察先のロンドンで66歳で亡くなられます。

「生涯は、鉄道を以て始まり、すでに鉄道を以て老いたり。まさに鉄道を以て死すべきのみ。」

といった言葉を、彼は晩年に口癖としていました。
自分の信念を全うするためには、たとえ上司であってもひるまずに意見を戦わせていた彼らしい言葉です。
ロンドンで鉄道技術を学んだ第一人者であるからこそ、かけがえのない方になられたのでしょう。

一つの道を究めるというのは、好きだからとか、楽しいからという理由だけではできないものです。
何か乗り越えなければない課題を解決するからこそ、好きとか、楽しいといった気持ちを続けられるように感じます。

私たちも、普段仕事や私生活でお付き合いしている方々にとって、かけがえのない方と呼ばれるような人間でありたいものです。

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