新興国経済の現状と課題【2013年 第10回】

【2013年 第10回 新興国経済の現状と課題 】投資に必要な経済の知識

有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール

 

新興国経済の動向。一口に新興国と言っても、各国さまざまな課題を抱えています。今回はBRICS諸国について、GDPの成長から見た現状と課題を考えてみます。

 

BRICS諸国について、GDPの成長から見た現状と課題

ちょっと息切れ感が有る新興国経済ですが、BRICS諸国の2004年からの10年間の名目GDPを見てみましょう。

 

 

グラフ1は名目GDPをドル建てで見た場合のグラフです。IMFの2013年4月発表のWorld Economic Outlookのデータに基づき、筆者がグラフ化したものです。これで見た場合、やはり今やGDP世界第2位の中国の圧倒的な強さが目を引きます。ただ、これはあくまでも国全体としてのGDPで、果たして国民が豊かになったのかどうなのかは判りづらいです。人口13億人の中国と人口5千万人の南アフリカを同じグラフに描いても比較は難しいでしょう。

 

それでは、次に国民一人あたりの名目GDPを見てみましょう。

 

 

国民一人当たりのGDPでは、ロシア、ブラジル、南アフリカ、中国、インドの順番です。それでは各国ごとに様子を見てみましょう。

 

(1)ロシア

一人当たりGDPは2004年から2013年にかけて3.8倍。ただ、年毎の振幅が非常に大きくなっています。特にリーマンショックの時の落ち込みが大きくなっています。石油を始めとした資源依存経済の為でしょう。製造業を始めとした経済のすそ野の広がりが乏しい、というのがロシア経済の大きな弱点ともいえるでしょう。民間主導の製造業の発展が望まれます。

 

(2)ブラジル

一人当たりGDPは3.4倍。こちらもロシアほどではないですが、資源への依存度が高いと言えるでしょう。動きはロシアと似ていますが、ロシアと違い2012年からは低迷しています。ヨーロッパ経済の低迷の影響もあるでしょうが、アメリカの金融緩和による資金流入を要因とするインフレ対策として金融引き締めも経済の伸びを抑えているのでしょう。海外からの投資の受け皿が少ないせいもあるのだと思います。そのためにも社会資本の整備等、投資環境の改善が望まれます。

 

(3)南アフリカ

一人当たりGDPは1.5倍。新興国としては低迷していると言えましょう。資源価格の影響は有るにしても低迷の原因はそればかりではなさそうです。黒人と白人ばかりではなく、黒人同士でも経済格差が大きくなりつつあり、それが治安の悪化につながっていると思われます。さらなる成長のためには治安の改善が必要となります。治安の改善には格差の縮小、格差の痛みを和らげる低所得者の生活改善策が必須となるでしょう。

 

(4)中国

一人当たりGDPは4.5倍。リーマンショックの影響も少なく順調に伸ばしてきています。ここにきていくぶん減速気味ですが、それも政府の想定内ということでしょうか。課題であった沿岸部中心の発展から内陸部への波及、これもほぼ想定通りに進んでいると思います。ただ次の課題、国有企業から国内民間企業への波及、こちらはこれからといったところでしょうか。これは利権構造に大きなメスを入れる形となり、政府内での軋轢も生まれると思います。これを実施できるかどうかが、次へのステップに踏み込めるかどうかの試金石になると思います。

 

(5)インド

一人当たりGDPは2.5倍。中国と同様にリーマンショックの影響は少なかったですが、成長率という点では見劣りします。BRICSの中では一人当たりGDPが最も低く、それだけ貧困層も多くなっています。他の国は離陸を済ませて上昇中なのに比して、こちらはまだ離陸途上といったところでしょうか。今後、離陸を完了するためには社会資本の整備と共に、高等教育だけではなく、初等教育にも力を入れていく必要がありそうです。

 

以上、各国の現状と課題について見てみました。各国それぞれ事情が違いますが、共通する課題というのも有ります。それを挙げていきます。

共通する課題

(1)政府主導の発展から民間主導の発展への移行。

政府主導の国家資本主義ではいずれは、ひずみが来ます。

 

(2)社会保障の整備

一定程度の格差は止む負えないでしょうが、それを補完するために低所得者への社会保障の整備が必要とされます。それなしでは治安の悪化は避けられません。

 

(3)政府規制の整備

民間企業が安心して活動できるように、規制を簡潔、公平に整備するべきです。規制も既得権の保護にならないように定期的に見直しをしなければなりません。

 

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