【2013年 第11回 財政政策で景気は良くなるのか? 】投資に必要な経済の知識
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
不況時には政府による景気対策、公共投資などの財政政策が景気回復の手段として用いられることが多いです。しかし、財政政策は景気拡大に実際に効果があるのか?経済学者では効果を肯定的にとらえている学者も数多くいますが、一方、否定的な学者も多いです。そこで実際の経済への影響とそのメカニズムを概略してみましょう。
財政政策による景気拡大効果
アベノミクスの第2の矢、機動的な財政政策。デフレ脱却のために第1の金融緩和と第3の成長戦略と共に実施されていますが、それでは財政政策による景気拡大効果はどれほどのものなのでしょうか?
※IMF World Economic Outlook Oct.2013 を基に執筆者が作成
グラフ1は日本の1994年からの実質GDPと構造的財政収支の対GDP比です。構造的財政収支とは景気変動による影響、税収や社会保障費の増減を調整したものです。日本の場合全期グラフが下向き、すなわち財政赤字が続いています。財政赤字が拡大するとGDPが上昇していた時期もありますし、リーマンショック前は財政赤字の縮小とGDPの上昇が同時に起きていました。これでは相関関係がよくわかりませんね。
※IMF World Economic Outlook Oct.2013 を基に執筆者が作成
グラフ2は同期間の構造的財政収支と、財政が翌年の経済にもたらした影響を見るために、翌年のGDPをプロットしたものです。横軸は財政収支、縦軸はGDO、解り易くするために近似直線を加えてあります。これを見ると近似直線は右下がり、すなわち、財政赤字が縮小すると翌年のGDP変化率が減少していることを表しています。これから判断する限り、財政政策の景気に対する効果は一定程度認められそうです。
ただ、財政政策を行っている時には、同時に金融の緩和も実施されていますので、純粋な財政政策の効果を測ることは困難です。
同時期に、先進国について計算した結果、財政赤字の景気拡大効果が認められるのは日本とイタリアだけでした。逆にアメリカとフランス、イギリスでは、財政赤字が膨らんだ翌年のGDPは減少する、という財政政策のマイナス効果が見られました。
世界的には、景気対策としての財政政策の効果は、必ずしも確証されるほどではない、という事になるのでしょうか。
景気を拡大させるメカニズム
次の財政が景気を拡大させるメカニズムを見てみましょう。
政府の公共投資などの財政政策により国民により多くのお金を廻すことが出来ます。国民はそのうちの一部を貯蓄し残りを消費します。消費された分は、また誰かの所得増となり、これがどんどん波及し景気が回復する、といったものです。ちなみに、国民の消費する割合が高いほど波及効果は大きくなります。
ただこれに対してはいくつかの批判的な考え方があります。それを見てみましょう。
(1)政府の支出増は、金利を上昇させることにより、その分だけ民間の投資を阻害する結果になるのではないか。
(2)政府の支出増は、金利上昇から為替レートの上昇(日本でいえば円高)を引き起こし輸出減により効果が減殺されるのではないか。
(3)政府の支出増は、赤字解消のための将来の増税の恐れを国民に抱かせ、国民は将来に備えて消費を減らすのではないか。
特に(1)と(2)の対策として、先進国では財政政策を実施する場合、金利を低めに誘導する金融政策を同時に実施しています。一般的には、変動相場制と自由な資本移動の状況では、単独としての財政政策の効果は無い、とされています。
今までは、経済の需要側の効果を見てきましたが、この他にも供給側に与える効果、公共投資の場合、インフラ整備による生産コストの効率化による効果があります。いわゆる潜在成長力の引き上げ効果です。
需要側は、ただ穴を掘って埋め戻すだけでも、要は国民にお金を配れば効果があるとされています。一方、供給側はその中身が吟味されます。
たとえ財政政策を肯定的に見ている場合でも、財政赤字はいずれ解消されなければなりません。景気が回復した場合、財政を黒字にし、国の債務を減少するというのは大原則です。日本のように、景気が回復しても赤字を垂れ流すようなことは許容されていません。政府による公共投資による景気回復を主張した経済学者のケインズも、そのような愚かなことは想定していなかったのではないでしょうか。
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