非上場株についての相続税の納税猶予【2013年 第6回】

【2013年 第6回 非上場株についての相続税の納税猶予 】投資に必要な経済の知識

有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール

 

2013年度税制改正で一部が改正になりました。なかなか使いづらい制度ですが、上手に利用すれば円滑な事業承継に大きな助けとなります。一方、使い方を誤ると、会社を破たんに追い込む原因を作ることも有ります。制度の概要と、使い方の注意点を見ていきましょう。

 

「非上場株式等についての相続税の納税猶予」

会社の経営を後継者に事業承継したい。そのためにも経営者が亡くなった後に自社株式を後継者に相続させたい。必要なことは遺言書を作成しておくことです。遺留分を侵害しない限り、遺言書の効力により株式は後継者に引き継がれます。

しかし、もう一つの障害は相続税です。会社の業績が順調に上がっていれば、株式の評価額も大きくなっていることも有ります。当然、相続税もそれなりの金額に。

 

会社の事業承継で、自社株に係る相続税が多額となり円滑な事業承継の障害になっていることも有るかと思います。このような場合の救済策として「非上場株式等についての相続税の納税猶予」という制度が有ります。相続時ではなく生前に株式を贈与する場合にも、贈与税について同様の制度が有ります。ただこの制度は、相続税や贈与税の納税免除ではなく、あくまでも猶予です。相続或いは受贈後に要件に合致しなくなった場合には猶予された税金を支払う必要がありますので注意してください。

 

これらの制度は複雑で使いにくかったのですが、2013年度の税制改正でいくらか使いやすくなりました。次の表に相続税に関しての制度の概要と改正点を挙げておきます。

 

 

相続税に関してのその改正点

制度を簡単に言えば、後継者が相続する株主のうち、すでに保有する株式と合わせ議決権の2/3に達するまでの相続株主の評価額を20%に減額し、残り80%に相当する税額を猶予するものです。なお生前贈与の場合は100%に相当する贈与税額が猶予されます。これらの制度が2013年度税制改正でいくらか使いやすくなりました。相続税に関してのその改正点を挙げます

 

1)相続開始前に経済産業大臣の事前確認が必要だったのが不要になりました。ただ制度自体が複雑で相続開始後では対処不可能な場合もあり、事前に経済産業省等に確認しておいた方が良いでしょう。

 

2)後継者の範囲に親族以外も加わりました。法定相続人とのトラブルにもなりやすいので、遺言書はもちろん、事前に法定相続人に説明しておいた方が良いでしょう。

 

3)猶予税額の免除要件に、民事再生や会社更生などが加わりました。今までは会社を存続させたまま、というのは難しかったですが、これからは幅が広がります。

 

4)猶予税額を納付しなければならない条件の一つに、従業員の要件が相続開始時の80%以上各年必要であったのが、5年間平均で80%以上となりました。一時的に従業員の数が80%を割っても、翌年以降従業員を80%超に増やし、減った年をカバー出来れば猶予税額を納付しなくても良くなります。

 

【この制度を使う場合の注意点】

 

2013年度の税制改正でいくらか使いやすくなりましたが、非常に制約が多いという事には大きな変わりは有りません。繰り返しますが、これはあくまでも相続税の納税猶予であって免除ではありません。

 

1)事業の再編で制約を受けます。猶予税額の免除要件が破産ばかりではなく、民事再生・会社更生等にも拡充されたのは大きなプラスですが、それでもM&A等での株式の譲渡などはハードルが高いと思われます。

 

2)猶予税額の納付要件の一つとして、従業員の要件が各年から5年間の平均に緩くなりましたが、それでも事業環境の急激な悪化には対処できない場合もあるでしょう。本来、従業員の削減が必要にもかかわらず、無理に雇用を維持することにより会社自体を危険にさらすことは本末転倒です。結局は全従業員の雇用をも守れないことになります。

 

以上のことを避けるためにも、相続開始後最低5年間は納税猶予額相当分を5年間確保し、いつでも払える状態にしておくことが良いでしょう。また手続きの煩雑さを考えると、この制度を使わないという選択肢もあります。実際、この制度の使用頻度は少ないようです。

 

納税猶予のために会社を危険にさらしてはなりません。納税は猶予されたが会社は破綻してしまった、という事が無いように。事業の存続と従業員の生活は納税猶予に優先させてください。
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