【2016年 第5回 ”複雑な仕組みの金融商品” 2-オプションが仕組まれた金融商品】こんな金融商品は要注意
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
前回はオプションの仕組みについて説明しました。
敷居が高いオプション取引、しかし身近な商品にもオプションが仕組まれています。
複雑な仕組みになりますが、そのオプションが買いなのか、売りなのかでリスクが大きく異なります。
オプション取引は敷居が高い?
前回はオプションの仕組みについて説明しました。
オプション取引は、保有している証券のリスクが一時的に、例えば中央銀行の政策会議や重大な選挙などで、大きな変動をする可能性があるときに、そのリスクを回避するには非常に有効な手段です。
しかし、単独でオプション取引を行うことには大きなリスクを伴います。
特にオプションの売りに回れば、巨額の負債を抱える可能性も有ります。
オプションの買いはカバードワラント(オプションを証券化・小口化した商品)等の商品で個人でも、比較的少額から手軽に始めることが出来ます。
それでも支払ったオプションの価値はゼロになる可能性が高く、ハイリスクであることには変わりありません。
しかしより危険度の高いオプションの売りは、多額の資産と高度な投資経験が無ければ取引は困難です。
オプションが仕組まれた商品
取引を始めるには敷居が高いオプション取引ですが、実はオプションを組み込んである商品は多くあります。
皆さんがオプション取引を行っているという実感がなくとも、その商品の収益源はオプションの収益という商品が各種あります。
その中でも代表的なのが転換社債という債券です。
それでは、その代表的な商品を見てみましょう。
①転換社債型新株予約権付社債
いわゆる一般的な転換社債で、CB債(Convertible Bond)とも言います。
満期には社債の額面か、割り当てられた社債を発行した一定の株式のどちらかで償還されるものです。
額面か株式、どちらで償還するかは社債を保有している投資家が選択できます。
もし、株価が上がって割り当てられた株式の時価が額面を上回っていれば株式で償還、株式の時価が額面よりも下落していれば額面で償還してもらうことが出来ます。
債券としての安全性と、株式としての収益性を兼ね備えた商品です。
仕組みは、債券と株式のコールオプションの買い(前回コラム参照)を合わせた商品です。
オプションの買いですのでオプション料が必要になります。
そのオプション料相当部分があるために、転換社債型新株予約権付社債は一般の社債に比べて金利が低くなります。
②他社株転換社債
EB債(Exchangeable Bond)とも言います。
社債と株式を組み合わせ、どちらかで償還される仕組みは前述のCB債と同様です。
大きな違いの第1は、株式が社債を発行した会社の株式ではなく他社の株式です。
第2は、社債か株式どちらかで償還されるか、それを判断するのは投資家ではなく、社債を発行した会社です。
特定の日の他社の株式が一定の価格以上であれば社債の額面で償還、それ以下に値下がりしていれば値下がりした株式で償還。
つまりどちらか、発行した会社の有利な方で、逆にいえば投資家にとって不利な方で償還されます。
これは社債と、他社の株式のプットオプションの売り(前回コラム参照)を組み合わせた商品です。
オプションの売りですからオプション料が貰えるはずです。
他社株転換社債は、そのオプション料相当分だけ金利が高くなっています。
損益曲線は次のグラフをご覧ください。
転換社債型新株予約権付社債は悪くても額面で償還されるので、発行している会社が破綻しない限り大きな問題はないでしょう。
しかし他社株転換社債は、該当する他社の株価次第では大きく額面を割り込むことがあります。
このように、オプションの売りである他社株転換社債は損失が大きくなる可能性があります。
非常に複雑な仕組債や仕組預金
プットオプションの売りを組み合わせた商品はいろいろなバリエーションがありますが、仕組債とか仕組み預金と呼ばれる商品はその一つです。
これらのオプションの対象も株式ばかりではなく、日経平均などの株価指数や為替などを組み合わせたものもあります。
また、額面かオプションの対象商品どちらで償還するかの判定基準も複雑なものもあります。
仕組み預金の例では「6か月満期で年利が3%、満期にはの満期日の5日前の米ドル為替レートは、申込時よりも20円以上安く(円高)なっていれば米ドルで償還します。(注)」などがあります。
「わずか6か月で20円も円高になるようなことは無いだろう?」と思うかも知れませんが、可能性としては十分あり得ます。
3%の利率はこのようなリスクを引受ける報酬です。あり得るからこそ、正確に言えば、市場がそのようなリスクを認識しているからこそ、そのオプションが成立します。
これが1ドル10円となると、その可能性は殆どゼロに近く、オプション自体が成立しません。
このように仕組債や仕組預金という商品は、オプションの対象や判定基準がさまざまで、文字通り仕組みが非常に複雑です。目先の利率だけではなく、隠れた損失の可能性を見極めることが必要です。
この様に、オプション取引は一般に金融機関が皆さんに販売する商品にも入っています。そこで入っているオプションが買いなのか、売りなのか?そこを見極まることが大事です。
特に、「オプションの売り」が仕組まれている商品は、思っている以上に損失が大きくなることが有ります。
(注)例は、説明のために商品を単純化したもので、仕組みや金利等は、特定の金融機関、または特定の金融商品から引用したものではありません。
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