CFP®1級ファイナンシャル・プランニング技能士であり、司法書士、行政書士としても活躍されている木村幸一さんにコラムを執筆いただきました。
「農地の所有者不明化を防ぐために~相続に関与する専門家として考えるべきこと~」として、全3回のコラムの、今回は第2回となります。
木村 幸一 ⇒ プロフィール
第1回のコラムでは「不動産の相続放棄」に関する相談が増えている背景について知ることができました。今回は日本全土の20%を占めると言われる未登記未了不動産対策となる法律に関する内容です。
法制審議会での検討及び法律の成立
近年、上述のとおり相続登記未了不動産及び所有者不明土地の増加が社会問題化しており、土地利用が阻害されるなどの弊害が顕著となっております。
国においても解決に向けて動き出し、法務省の法制審議会民法・不動産登記法部会(山野目章夫部会長)において民法及び不動産登記法の改正についての検討がなされ、合計26回の会合が開催されました。
その過程で、令和元(2019)年12月に改正に関する中間試案が発表されており、令和2(2020)年3月にかけて意見募集がされました。
意見募集には弁護士や司法書士の連合会や各単位会、各専門職の有志の他、学会や森林組合、経済団体なども応募しており、この問題の根の深さや解決に向けての各所での関心の高さがうかがえるものとなりました。
これらを踏まえて国会にて審議がなされ、令和3(2021)年4月21日に「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号。以下、「改正法」)。」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号。以下、「新法」。)として成立し、同月28日に公布されました。
改正法及び新法については段階的に施行され、現在に至っています(本稿では新法及び改正法の内容のうち、相続登記に限定して触れていきます)。
相続土地の国庫帰属
まず、新法においては土地所有権の国庫帰属の方法について、一方的意思表示に基づく「放棄」の方法を採用せず、「申請による承認手続き」という方法を採用しました。すなわち、
・申請人を相続や遺贈により土地を取得した相続人に限定し、
・法令で定められた要件を満たした土地(建物は手続きの対象外です。)について、
・土地の所在する地の管轄法務局に、「手数料」を納付して申請の上、
・法務局の調査による承認後、申請人に「負担金」を納付させて、国の管理庁(財務省または農林水産省)に帰属する。
という手順を踏むことになります。施行日は令和5(2023)年4月27日とされており、施行日前に発生した相続による土地の取得についても適用されます。
国の管理負担の増大化とモラルハザードの防止
不動産については、所有権を放棄することへのニーズがあるものの、それを限りなく認めることにより、帰属先である国の管理の負担が増大すること、及び管理不全地を帰属させることによるモラルハザードを防止するとの観点から、新法では次の方策が採られています。
まず、法令により申請時点で帰属審査の対象土地を制限しています。あわせて、管理処分に過大な費用や労力を要する土地を審査の上で除外しています。
さらに、申請人に申請時に「審査手数料」を納付させ、かつ10年分の土地管理費に相当する「負担金」を納付させた上で初めて国庫帰属する、という仕組みにしました。
なお、審査手数料については、新法施行令で1万4000円と定められ、負担金については、同じく20万円を基準として地目(土地の種類)や所在、面積により加算される仕組みになっています。
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