木村幸一 の「農地の所有者不明化を防ぐために~相続に関与する専門家として考えるべきこと~」第3回

CFP®1級ファイナンシャル・プランニング技能士であり、司法書士、行政書士としても活躍されている木村幸一さんにコラムを執筆いただきました。

農地の所有者不明化を防ぐために~相続に関与する専門家として考えるべきこと~」として、全3回のコラムの、今回は第3回となります。

木村 幸一 ⇒ プロフィール

 

 

 

 

第2回目のコラムでは「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号。以下,「改正法」)。」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号。以下、「新法」。)に関するご説明でした。

相続登記の義務化


今般改正法により、不動産登記法の一部についても改正され、従来対抗要件として登記自体が任意とされていた相続登記について、申請が義務とされました。
施行日は令和6(2024)年4月1日で、改正法施行前から筆者の事務所でも相続登記申請のご依頼やご相談が急増しており、全国的にも申請が増加しているようです。

背景として、平成29(2017)年の国土交通省による地籍調査によると、調査対象の62万9188筆のうち、22.2%の14万筆弱が所有者不明の状態となっており、その発生原因の65.5%が相続登記未了となっていました。

農地に限ってみても、相続未登記農地及び相続登記未了のおそれのある農地(住民基本台帳上、所有権登記名義人の生死が不分明)が、全農地面積の20%を占めており、大きな問題となっております。

正当な理由がない限り10万円以下の過料


改正法の施行により、自己のために相続が開始したことを知り、かつ所有権を取得した日から3年以内に相続登記の申請をする義務が、新たに定められました。
この義務違反については、「正当な事由がない限り」10万円以下の過料の対象となります。

この義務は、施行日前に開始した相続についても適用となることから、施行日以降前述の要件を充足して3年以内に申請する義務が生じることになります。
過料は不利益処分であることから、「正当な事由」の具体的な内容は法令や通達で明確化されています。

また、遺産分割が整わないなど上記の期間内に相続登記の申請ができないこともありえますので、上述の義務を履行する意思があるにもかかわらず果しえない場合の救済措置として、相続人申告の登記が新たに新設されました。
すなわち、所有権登記名義人について相続が発生した旨、及び自身が相続人である旨を、相続人の1名から上記期間内に登記官に申出をすることにより、当該相続人は登記義務を履行したものとみなすこととされました。

ただし、これはあくまでも相続登記申請に代わって登記義務を履行したものと扱う制度に過ぎないことから、権利の表示とは異なり、最終的に権利を確定させた上で相続登記をしないと、所有者としての権利主張ができないことになります。

さらに、相続登記の漏れを防ぐべく、全国の被相続人の所有不動産を網羅的に把握するために、一覧でリスト化する「所有不動産記録証明制度」が令和8年4月までに施行される見込みです。

上記の義務については、相続登記をすれば義務履行とされるため、(専門職が関与した場合はないと思いますが)期間満了直前に暫定的に法定相続分に基づく相続登記申請をすることも起こりえますが、仮にそのような登記をした場合には長期的な目で見ると権利関係が輻輳することがあり得、将来の利用・処分の段で厄介な問題が生じるなど、禍根を残す恐れもあります。
FPなどの専門家としては、このような登記のデメリットを依頼者に説明して、早急に遺産分割により権利を簡潔にした上で、その成果に基づく相続登記の申請を促すことが、今まで以上に大切になると考えられます。

おわりに


今後の実務運用や実績を踏まえて、これらの改正法や新法の見直しが検討されることになるでしょう。
しかしどのようになろうとも、不動産の相続にあたりFPや連携する専門職が考えるべきことは「いかに所有者不明の土地を生み出さないか」「いかに相続人に土地を有効に活用してもらうか」であると思います。

前述のとおり、専門家としては安易に法定相続分による相続登記を進めるのではなく、法律で規定された職務の範囲内で遺産分割の促しを行ない、簡潔な権利関係を登記に反映させることが、今まで以上に求められることになります。

国庫帰属の承認申請については、法務局への申請手続きであることから、弁護士や司法書士、行政書士のみが申請書類の作成に関与することが可能です。
しかしながらFPもそのネットワークを活用することにより、承認申請などの相続手続きに関与することは可能ですし、一定程度の知識を押さえておく必要はあると思います。

今後の実務の流れを注視し必要であれば声を上げつつ、各々の所有者や相続人に適した方法を模索し、提案出来るようにして行くことが大事なのではないでしょうか。

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