【2008年 第11回 「食」を考える(4)】地域コラム 甲信越・北陸
田中 美紀子(タナカ ミキコ)
今年は、食の安全・安心を大きく揺るがす企業の不祥事が相次いで起こりました。中国製毒ギョーザによる食中毒に始まって、産地・賞味期限の偽装、豚肉を牛肉と偽る、事故米の不正転売などなど。その中には倒産に追い込まれたり、一時販売中止になった企業もありました。
10月後半にはいり、また食にまつわる2件の事故が発覚しました。外食チェーン店サイゼリアのピザ生地へのメラミン混入、伊藤ハムの製品に基準を超えるシアン化物を含む地下水が使用されたことが判明したのです。
この2社の事故発覚から公表・代金返金・製品回収にいたるまでのそれぞれの対応とその間株価がどう動いたかを比較してみました。
サイゼリア
10/16 自主検査で中国からのピザ生地に微量のメラミンが検出され、厚生労働省等へ連絡
10/19 店舗でお客様への文書掲示とともに、HPに掲示し公表
10/21 食事代返金の発表、対象数量:54,000食
この間、事故の状況・経緯・検査体制などを詳細にHPに掲示。
伊藤ハム
9/24 東京工場の地下水から水道法の基準を超えるシアン化物を検出したが、製造は続ける。
10/15 地下水の使用を中止
10/22 東京工場から本社へ報告
10/25 事故を公表し商品の回収・返金を発表 対象数量:267万パック
10/26 生協などのPBブランドも回収対象であることを公表 対象数量:64万パック
HPには簡単なお詫びとお願いの文章・回収状況・回収商品の検査結果(不検出の旨)が掲示されたが、経緯などには触れられていなかった。
両社の事故後の対応を比べてみると非常に対照的なことがわかります。
一方は事故発生後速やかに公表し、返金の体制を整えるまで時間がかかっていません。また、レシートなしでも返金に応じるということだったので、そこまでしなくてもいいのではと思ったほどです。また、一方は事故判明後も製品を作り続けて1ヶ月後に公表、PBについては取引先へ
の配慮から1日遅れで公表というお粗末さです。
両社とも「食」に携わる企業として知名度の高い上場企業です。経営理念には、サイゼリアは「安心で健康的な食事の提供」を掲げ、伊藤ハムは「安全で安心な商品のお届け」を謳いさらにコンプライアンスとして「法令違反の早期是正と厳正対処」を掲げています。
しかし、いくら立派な経営理念であっても、それが実際に実行されていなければ経営理念として掲げる意味はないと思います。
さて、この間両社の株価はどのように動いたのか、10月6日から11月5日までの株価のチャートで確認しましょう。
サイゼリアは、公表直後株価は20%下がりましたがすぐまた上昇に転じており、10月末にはほぼ公表前の水準に戻っています。伊藤ハムは、公表直後40%と大きく下がり、上昇はしたものの11月5日時点で16%下がったままです。
事故の影響額と売上高比率を対象数量(最大)×単価で大雑把に算出してみますと、サイゼリア年間売上850億円に対して24百万円で0.03%、伊藤ハムは5,180億円に対して993百万円で2%でした。影響額に大きな差はありますが、売上高比率は両社とも1%未満と経営に
大きく影響する率ではありませんでした。
事故の影響額の大きさや、10月最終週大きく上昇している株式市場の動向(東証株価指数TOPIX推移参照)が両社の株価の動きも反映されると思いますが、食の安全を守り切れなかった危機管理体制の不備と消費者を優先しなかった対応のまずさに対する失望も侮れないのではないでしょうか。
食に携わる企業には、食の安全・安心を守るとはどういうことかを最優先で考えていただきたいし、それが優良企業として存続し・発展するための最良の方策だと思います。
●サイゼリア株価
●伊藤ハム
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