【2008年 第12回 「薬害」を考える】地域コラム 甲信越・北陸
田中 美紀子(タナカ ミキコ)
薬は、私たちが生活する上でごく身近にあるもので、カゼ薬、胃薬、頭痛薬などはよく飲むという人も多いかと思います。日本の製薬会社の売上高は年々増加し、平成18年度で約7兆円(日本国内)といいますから医薬品は巨大市場といえるでしょう。
しかし、私たちが飲んでいるのは本当に必要な薬・必要な薬の量なのでしょうか?薬は「病気を治す」ために飲むものですが、病気が癒えるどころか薬の副作用によって重大な疾病に陥ることになったとしたら、あなたはどうしますか?
「たった一人で、国・薬害裁判に勝つ」福田実著(日本評論社)は、医師の処方で飲んだ薬によって重症副作用に倒れた著者が、国・製薬会社を相手取って起こした裁判の記録です。
著者は、生活習慣病である脂質異常症(高脂血症:中性脂肪・総コレステロールが高い)を治すため、メバロチンとベザトールというコレステロール低下剤2種を1年半にわたって飲み続けた結果、全身筋委縮、四肢のしびれ、嚥下障害、排尿障害などの重症副作用に陥ったのです。
「コレステロール」といえば、健康診断を受けると必ず検査される項目で、昨今どこか悪者扱いされているような節がありますが、その働きについてはよく知られていないのではないでしょうか。「細胞膜・ホルモン・胆汁酸」の原料になるそうで、体を維持するのに重要な働きを担っているではありませんか。
コレステロール低下剤は、肝臓でコレステロールを強力に阻害するものだそうです。「よく効く、強力な薬」というのは便利な反面、何か安心して飲めないし、副作用の存在を疑いたくなります。
この本は、薬による副作用が体を破壊してしまうほど恐ろしいものであることを教えてくれます。そして、薬が引き起こした副作用であると認めてもらうことは容易ではなく、救済措置はほとんどないという不合理な現実を見せつけられます。
病院・国・製薬会社に対して裁判を起こして、薬と症状との因果関係を立証するしか方法はないのです。しかし、裁判となると莫大な費用と長期間かかることを覚悟しなければなりません。収入もなく、病をかかえての裁判。副作用に苦しむ人の多くが泣き寝入りを余儀なくされている
のではないでしょうか。
著者は10年間流動食しか摂れず、つらい体の症状と闘いながら、信頼できる医師や弁護士の協力を得て5年かかって国訴訟で勝利、薬害と認定されたのです。仕事も家庭も順風満帆だった人が、薬の副作用のために職を失い夢を断たれた絶望の淵から這い上がり勝ち取ったのです。その強い意志と信念と勇気を思わざるを得ません。
さて、製薬会社の使命とは一体何か。「薬によって病気を治し、命を守る」ことにつきると思います。
もし、薬の重症副作用、他の薬との併用による害があるのならば、海外の事例も含めて速やかに公表し医療機関にも周知するのは当然のこと。遅れれば遅れるほど多くの人の命にかかわるからです。現在、はたしてそういった体制が取られているのでしょうか。
私は、何かの病気にかかった時も「安易に薬に頼らない」という姿勢を持ち続けようと思っています。薬に全面的に頼ろうとする前に、人間には「自然治癒能力」というものが備わっているということを思い出したいものです。
今問題になっている、推定940万人ともいわれるメタボリックシンドローム患者も、飲酒・喫煙を控え、食生活を見直し、適度な運動をすることである程度は改善されるのではないでしょうか。それは薬に頼らなくても自己管理で充分できるのではないかと思います。
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