2014年 第2回年 記録が見つかって減る年金 年金ミステリー
菅野 美和子(スガノ ミワコ)⇒プロフィール
消えた年金記録問題から数年。まだ半数ほどの記録が持ち主に戻らないままです。すでに亡くなった人の記録もあるでしょうから、すべてが解決することはないでしょう。その一方、懸命に自分の記録を探して、やっと確認できたのに、見つけた記録のために年金額が減額されることもあるのです。通常、記録が見つかれば年金額が増えると期待しますが・・・
80歳のA子さん
80歳のA子さん、苦労を重ねて生きてきました。生まれ育った家は豊かではなく、兄弟も多かったので、20歳前から働いていました。個人商店や会社など、いろいろなところで働き、27歳で結婚しました。結婚してからは夫の商店を手伝っていましたが、A子さんが40歳のときに夫は病気で亡くなりました。
亡くなった夫は商店を営む自営業でした。本来、国民年金に加入すべきところ、加入手続きもせず、保険料も納付していませんでした。そのため、A子さんは遺族年金をもらえませんでした。
A子さんはその後家業をたたみ、いろいろな仕事をして子どもを育ててきました。夫が年金の保険料を払ってこなかったことで、遺族年金もなく経済的に苦しい生活を強いられたので、自分の老後を考えて、国民年金の保険料を払うようにしました。生活がきびしいときは、免除制度を利用しました。
そして60歳になり、年金を受け取るための25年を満たしたA子さんは、少ないながらも老齢厚生年金をもらえるようになりました。
65歳からは老齢基礎年金を受け取れるようになりました。ただ、年金だけは生活できず、娘夫婦といっしょに暮らしています。
A子さんは転職を繰り返していました。年金記録が問題になったとき、子どもたちから記録を調べてみたらと勧められ、自分の年金記録を調べてみました。
すると、Y社の記録がないことに気が付きました。
24歳頃から2年間会社勤めをしたことは、はっきり覚えています。その間の年金記録がありません。
大きな会社ではなかったし、厚生年金には入っていなかったかもしれないと思っていましたが、なんと、Y社の記録がみつかったのです。そして次にわかったことは、Y社を退職するときに、A子さんが脱退手当金を受け取っていたということでした。
当時は、退職するときに、厚生年金の保険料を一時金で受け取るという制度(脱退手当金)がありました。厚生年金を脱退するときに、保険料を返還してもらうという仕組みでした。
特に女性は結婚等で退職すると就職する機会がないことが多かったので、一時金で受け取るという人も多かったようです。
何分昔のことなので、A子さんは受け取った記憶もさだかではありませんが、受け取っていないという証拠もありません。
「せっかく見つかったけれど年金は増えないね、しかたないね」と思いました。
しかし、驚くことがありました。見つかった記録を統合すれば、A子さんの年金額が減ると言われたのです。
年金額が増えないのはしかたないとしても、なぜ、記録を統合すれば年金額が減るのでしょうか。A子さんはどうしても納得できません。
実はA子さんがY社に勤めていた2年間、お母さんがA子さんの国民年金の保険料を払ってくれていたようです。お母さんも制度についてはよくわからず、娘のためにと思い、自分の保険料といっしょに払っていたのでしょう。
A子さんがY社を辞めたあともしばらく払ってくれていたようですが、家計も大変だったようで中断。そして、A子さんは結婚し、そのままになっていました。
今回Y社での厚生年金加入期間と国民年金保険料納付期間が重なっていることがわかりました。
このように、二重に年金制度に加入した場合、厚生年金加入期間が優先されます。その間の国民年金保険料は返還されます。
本来なら厚生年金加入期間が優先されるので、年金額は増えます。しかし、A子さんは一時金で受け取っていたので、年金額は増えません。それどころか、国民年金保険料が返還され、国民年金の加入期間が取り消されるので、年金額が減額されます。
がんばって記録を見つけたのに、年金額が減ってしまう!
こんなこともあるのです。
現在は、記録が見つかった場合に、年金額が減額になるのであれば、記録の統合をしなくてもよいようになっています。
年金記録の発見で年金額が減るということになったA子さん、「年金ミステリー」を体験しました。結果として、記録を統合しなかったので、今までどおりの年金を受け取れることになりましたが、A子さんは割り切れない気持ちになっています。
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